高校卒業後から勤めた会社の最終出社日を終えると、彼女はその足で旅行会社へ向かった。日曜日から出発して土曜日には終わる六泊七日の一人旅。有給消化期間を使って長らく暮らした東京から少しの間脱出する。目的はない。ただこれから始まる慌ただしい日々の前に、少しモラトリアム期間を設けたかった。場所はどこでもいい。温泉街でも、観光地でも、テーマパークでも。女一人で旅をすることで、自分がほかの何者でもない個人であるという確信を得たかった。この人生は己の意思で選択したものだと、自分自身が納得するために。
最低限の着替え、スマートフォン、お金さえあればなんとかなる、彼女はそう考えて小さめのトートバッグを一つだけ持って家を出た。東京にはとにかく人が多い。それなのにすれ違う人々の中に知り合いは誰一人としていない。彼女は誰に見つかることも無く駅のホームで遠く離れた地に行くための新幹線を待つ。これから中国地方へ行く。なぜそこかと聞かれたら行ったことがないからだった。海が見たかったというのもある。日本海側にはかつて行ったことがあったので、穏やかな海を見てみたいという理由で瀬戸内海側に決めた。宿はとってあるが明確な旅行プランは無い。書店でピンときた小さなガイドブックを一冊だけを買って旅の道しるべとする。移動は徒歩とレンタサイクル、長距離は電車か船にすると決めた。車には乗らず、この肌でその土地の雰囲気を感じたいからだ。