優しくしてくれるなら、いいよ

第7話

 ドキドキの初デートを終えて三週間後。交際して間もない恋人同士としてありえないほど次のデートまでの間隔が開いた。忘れたくないのに唇の感触を忘れてしまいそうになり、七海はマシュマロを購入して自宅で口づけてみた。フニフニと柔らかいが、本物とは何か違う。二度三度と確かめているうち、ふと消えたテレビを見るとお菓子に口を押し当てる寂しい男が映っているのが目に入り、いたたまれない気持ちになって頭を抱えた。まるで中学生のような拙い恋心を抱く二十七歳成人男性。こんな姿は絶対に誰にも見られてはいけない。

 ようやく約束できた日曜日。朝早く七海の自宅の最寄り駅で待ち合わせた。前回とは違う柄のヒラヒラスカートを履いて女性らしい装いで現れた彼女に、今回こそは可愛いと伝えることができた。早口かつ彼女とは真反対へ向かって言ったので聞こえていなかったのか、彼女からの反応は無かった。声が小さすぎたのかもしれない。七海が手汗で湿った手を差し出すのを躊躇していると、彼女の手が遠慮がちに絡んできた。さも当然のように握り返してみたが、心臓はバクバクと激しく打ち、額に脂汗が滲む。高専で顔を合わせることはあっても、二人きりの時間を過ごすのは久しぶりだ。前回ようやくキスまでこぎつけたのに、長い時を経てリセットされてまた振り出しに戻っている。七海の自宅の扉は目の前だ。ここを開けると、前回の先を嫌でも意識してしまう。こんな調子ではセックスなんて程遠いと七海が白目をむきそうになっていると、彼女が訝し気な表情で見上げていたところだった。

「なんでずっと黙ってるの」
「ストレートに言えと前回言われたので言いますが、今日はセックスしたいと思います」

 やや大きめの声で七海が言い切ったあと、彼女は下唇を突き出してむっとした表情を作った。

「わかってるけどさ、そういうのはオブラートに包んでよ」

 乙女心は難しい。ストレートに言うべきときと、やんわりと告げるべきとき。その違いは一体全体なんだというのだ。他のカップルはどのように使い分けているのだろう。セックスのスマートな誘い方がわからない。脳内七海に聞いてみると彼は得意げに答えた。まずは照明を落としてアロマキャンドルを焚き、少しずつスキンシップをとる。彼女の瞳がとろんと潤んできたところで『アナタのことを愛しています』と言えばベッドへ誘えるのだという。時すでに遅し。直球で誘ってしまっている。まあこれでお互いに覚悟はできただろう。

 七海が鍵を開けて彼女を招き入れた。一歩入ると七海の匂いでいっぱいだった。靴を脱いで揃え、足を踏み入れると嫌でも緊張感が高まってきた。焦ってはいけない。まずは久しぶりの逢瀬を楽しむため、何か飲みながら愛を語らおう。そうするときっとそのうち、そういう雰囲気になるはずだ。



 用意しておいたケーキを食べ、コーヒーを飲み、二人は上の空で他愛も無い話をした。なかなか触れてこない七海に焦れた彼女が、七海の筋肉質な大腿に手のひらを置く。熱い手のひらから昂るものを感じてしまい、七海の股間がびくりと疼く。いいんですねと念押ししたら、彼女は真剣な表情で頷いた。七海が彼女の手を取り寝室へと導く。頭元の小さなランプの灯りだけが点いていて寝室は薄暗い。こういったとき、シャワーをすすめるべきだろうか。なんだか野暮な気がして結局言い出せず、二人してベッドの縁に腰掛けた。

「したい」
「うん」

 短い会話がなされたあと、並んだまま口付けを交わす。始めは軽く触れ合うだけだった唇が、徐々に音を立てはじめる。焦っているであろう七海が性急な手つきで彼女の脇腹を撫でる。くすぐったいのに、ちょっぴりキモチイイ。この間の行為とは明らかに違う、じりじりと燃えるような感覚が腹の底の方でくすぶっているのを感じる。服の上から肋骨をなぞるように撫でまわす七海の手を彼女がとり、胸元へと持っていく。許しを得たような気がした七海は、服の上から胸の膨らみを揉んだ。下着のワイヤーが邪魔だと感じるが、脱がすタイミングがわからない。しかしこのまま服の上から触っているだけでは、この先へ進めない。七海の太ももを撫でていた彼女の手がするすると上がってきて、シャツのボタンをぷつぷつと外していった。脱がせやすいように動いていると、いとも簡単に上半身は裸になってしまった。なんだか彼女に主導権を握られているような気がする。それがなぜか心地いい。二人きりの空間で、長い間夢に見ていた相手と結ばれようとしている。セックスがゴールでは無いが、ずっと一人で夢想してきたことがこれから現実になるということを反芻すると涙が出そうになる。

 七海が彼女をそっとベッドへ横たえた。彼女に跨り、見下ろすと珍しく真っ赤になっていた。手で顔を隠そうとするので、七海は彼女の両腕を頭の上で拘束した。静かな寝室に二人の息遣いと衣擦れだけが聞こえている。何か言うべきだろうとわかるが、いつものごとく言葉が出てこない。恋だとか、愛だとか、そんな陳腐な言葉では七海の気持ちを言い表せない。もっとどろどろと濃く、地球の中心部より熱い。好意以外の不純物も混ざっているから濁っているし、命を捧げてもいいとさえ思えるほど想っている。七海の中で激しい感情が渦巻き、このままでは潰してしまいそうだ。彼女も術師とはいえ明らかに自分よりか弱いし、恐怖からか緊張からか、わずかに震えている。七海は頭の中で何度も落ち着けと繰り返した。それから少しずつ衣類を脱がせていく。お互い初めてではないものの、改めて思い返すと最後にセックスしたのはいつだったか思い出せない。それに監禁部屋でのセックスが脳裏に過ぎり胸が軋む。それでも七海の下半身はズボンの中で窮屈そうに存在を主張し始めていた。耐え兼ねて七海がボクサーパンツ一枚になると、彼女は真っ赤な顔を真っ青にして後ずさりしてしまった。

「ちょ、ちょっと、まって!」
「何か」
「やっぱ、七海、あの、おっきすぎて、その、一旦ストップ」

 下着越しでもわかる巨大さに怯え切った彼女から制止され、七海は一旦引いた。お互いベッドの上で正座になり、うつむいている。世界の平均サイズは約十三センチらしい。測っていないので七海のペニスが一体どれくらいの大きさかわからないが、明らかに彼女の手のひらよりも大きく、下着から先端がはみ出しそうだった。太さもあるのか下着の前がパツパツに膨らんでいて、陰嚢の辺りはぼってりと重みがありそうだ。見るからに巨根であるのは間違いないし、実際に一度入ったときに裂けるかと思ったほどだ。確かにあの部屋で、一度は彼女の中へ入っている。ただあの時はもうやけくそで、大きさなんて見ている余裕は無かった。さっさと終わらせたい。あわよくば一度限りでもセックスがしたい。そんな思いと勢いがあったからできただけで、いざセックスとなると恐怖を感じるほどの大きさだった。七海は彼女の怯えた様子を見てぼそりと呟く。

「……今日はやめよう」
「あっ、あの、時間かければ! ゆっくりすれば入ると思うから!」
「怖がっているのにそんなことできない。いいんです」

 挿入だけがセックスではないし、セックスだけがコミュニケーションでもない。無理矢理突っ込んだ最悪のセックスが思い出され、七海はあの行為を心の底から後悔した。彼女からやれと言われたからといって、同意しなければよかっただけだ。結局、突っ込んだのは七海で、傷ついたのは彼女なのだから。辛そうにうつむく七海を見て、彼女は胸が締め付けられるような気持になった。そろそろと七海の側へ寄り、手を取る。指先は冷たく、手のひらには汗をかいていた。

「明日になったら小さくなる?」
「……それは、ならない」
「そりゃそうだよね。かつてない大きさだったから、怖くて。でも大丈夫。絶対入れてみせる」
「挿入だけがセックスじゃない」
「諦めないで。仮にもあのとき一回は入ってるわけだから、大丈夫。改めて見るとちょっとびっくりしただけ。七海、きてよ」

 彼女が七海の手を自身の胸に導く。下着越しだがふにゃりと柔らかく、安心する触感が伝わってきた。それと同時に、あの部屋では陰部以外に全く触れることなく挿入だけしたことをまた思い返してしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。本来セックスとは、お互いに触れ合い気持ちを高め、愛を持って昇り詰めることでは無いだろうか。彼女はあれを〝エッチ一回にカウントしない〟と言っていたが、本当にそうだろうか。七海が穏やかに微笑み口を開く。

「もう痛い思いをさせたくない。今日はやめです」
「やってみたら案外スルっとはいるんじゃない? ほらみて! 期待でビショビショ!」

 七海の発言を聞いて慌てた彼女が大きく足を開いてクロッチの部分を指でなぞった。確かに濃く色が変わっていて、濡れているのが分かった。ほらほら早く見てよ七海もういけると思うと彼女が早口で捲し立てていて、なんだか気の毒になってきた。明らかに気を遣わせてしまっているし、あの部屋のせいで普通の流れからのセックスができない。あの部屋に入らなければこうして交際することは無かったかもしれないが、あの部屋のせいで関係がギクシャクしてしまう。

「……そもそもこの空気がどうなんですか」
「だって! 七海がおっきすぎるから! 今までどうしてたのそれ⁉ 相手に迷惑だよ!」
「だから勝手にこうなったんです。無理しなくていい。もう泣いてるアナタは見たくない」

 どこかで聞いた台詞を改めて言われると、なんだか理不尽さを感じてしまう。巨根で良かったことなど一つもない。大衆浴場ではジロジロ見られ、パンツやズボンのおさまりも悪い。それにセックスでは今みたいに怖がられて痛がられる。平均的サイズに産まれたかったと七海は心の中で己の血筋を恨んだ。そんな七海の頭の中を知ってか知らずか、彼女が更に七海に迫って下から見上げ、きゅるんと瞳を潤ませる。

「……ほんとは?」
「今すぐセックスしたい」

 そう七海の本能は言う。本能だけでなく本体からも口に出してしまった。もう止められない。本当はセックスしたい。当たり前だ。全身全霊で彼女を愛し、蕩けるまで感じさせたい。

「優しくしてくれるなら、いいよ。ゆっくりしよう」

 彼女が七海の両頬を手のひらで包み、ニコリと笑った。優しくすると七海が漏らすと、約束だよと彼女が返事をした。それから二人の唇が重なり、少しずつ深い口づけへと変わる。彼女が七海の大腿にまたがると、嫌でもあの部分が擦れてしまう。既に潤いはじめていた秘部を下着越しに七海の股間にわざとらしく押し付けてみる。ピクピクと震え、下着の中で更に窮屈そうにした。そのままずりずりと擦り続けながら、七海の薄い唇を味わう。口の中に舌を滑り込ませると、意外にも鋭い犬歯をなぞってしまい、ぞくりと背筋が震えた。七海に噛みつかれたところを想像しただけで、ナカからどろりとしたものが溢れてくるのがわかる。七海建人に欲情している。彼のすべてが愛おしく、全部欲しい。自分のものにしたい。七海にもそうであってほしいと願う。

 七海は彼女に唇を弄ばれながら、想像以上に豊満な胸元を撫でていた。この日のために用意されたであろう上下お揃いの可愛らしい下着。控えめなカラーなのにデザインは少々大胆だ。手触りはスルスルと心地よく肌馴染みがいい。繊細なレースがささくれた指に引っ掛かりやしないかと心配になりながら、焦らすように下着をなぞる。

「んぅ……、七海、触りかたがエッチすぎ……」
「アナタこそ、さっきからどこで何を擦ってるんでしょう」

 どちらのモノかもわからない唾液がほんの少し離れた唇から糸を引く。少し離れただけなのに寂しくなって、またすぐに唇同士がくっついた。七海が彼女のブラジャーを外す。締め付けがきついかったのか、外れた瞬間透き通るような白い双丘がぷるんと弾け出てきた。

「ァ……へんじゃ、ないかな」
「想像よりいやらしすぎて、気が触れそうだ」

 吸い付くような肌はもちろん、少し大きめの薄桃色の乳輪が外気に触れて少し硬さを増す。先端は小ぶりながらもピンと立って主張し、早く触ってくれと七海を急かしているようだ。

「ぃ、いみ、わかんな、いッ……」

 胸を包み込む七海の指が先端に少し触れただけで背筋に甘い痺れが走る。みっともない声が出てしまいそうになるのを必死で堪えた。普段クールな男がうっとりした表情で彼女の胸の間に顔を埋め、ふかふかと胸の感触を楽しみ、乳首をいじわるく撫でる。しばらく両胸を揉みしだいていた七海の手が、徐々に中心部へと迫ってきた。痛いくらいに勃起した乳首はもう待ちきれない様子だ。こうなったらもう、摘まんでやるしかない。七海の太い親指と人差し指が、彼女の乳首を優しく挟む。たまらず腰をグイグイと七海の股間に擦り付けてしまい、彼女は自分がとんでもなくはしたない女になってしまったような気がした。欲しくて欲しくて、もう我慢できない。もっと強く、捻って擦って、吸い上げて欲しい。そう言いそうになったとき、七海の指にぐっと力が入り、両方の乳首が擦り上げられて悲鳴をあげる。

「ンひッ……! そ、それッ、やあァ」

 いきなりの強い刺激に抗議の声をあげるも、どう考えても嫌そうではないと七海は執拗に乳首をこねくり回す。抓んで、弾いて、少し引っ張る。耐えがたい快感が彼女に駆け巡り、腰を揺らす。ビンビンに立ち上って、もっとしてくれと主張しているのに、なぜか口には含んでくれない。

「な、なみ……、して、よ……」
「してます」
「ちが、くて……、乳首、吸って、イカせて、ほし、の」

 彼女が耐え切れず口にすると、七海が不敵に笑って突起を口に含んだ。優しく甘噛みされ、彼女は出したことも無い叫び声のようなものを発してしまい、慌てて口元を押さえた。そんな彼女に構うことなく、吸って、食んで、舌で転がし弄ぶ。

「うぅ……、イ…ッ、イキそ……」

 七海が下から突き動かすように腰を揺らすと、それに合わせて彼女も秘部を押し付ける。下着越しに感じるお互いの熱が心地よく、気分が高揚していく。なりふりかまわず七海のペニスにクリトリスを擦り付け、何度も押し付けるうちに彼女は背中を反らして派手に果てた。

「あーッ、イッ、てる……! キちゃった……、あぁ、きもちいーッ……」
「すごく気持ちよさそうでよかった」
「ななみも、はやくゥ……」

 顔を蕩けさせた彼女が七海の唇を啄むように吸い、この先を促した。七海の下着に手をかけ、半ば無理矢理引き摺り下ろす。ぶるんと逞しく勃起したペニスが現れ、先ほどは恐怖でいっぱいだったのに、今すぐに欲しくなってしまう。これがさっき、擦れて気持ちよかった。これを入れたら、きっと、もっと、気持ちいい。

「焦らないで。ゆっくり二人で気持ちよくなりたい」

 すっかりその気になった彼女が七海の胸の突起を指で弄りながらペニスに手を伸ばす。ゆるゆると扱くと、七海が呻き声をあげる。やはり大きく、長さもあり、表面は血管が浮いてデコボコしていた。カリ高なので中のイイトコロに当たったら最高だろう。すっかり欲しくなってしまった彼女を諌めるように、七海は彼女をベッドへ横たえた。早く早くと急かす彼女の胸の突起を可愛がりながら口付けて、秘部へと手を伸ばす。そこはもうぐずぐずに熟れていて、今にも溶けてしまいそうだった。尻の穴まで流れたぬめりを指ですくって、彼女のクリトリスにすり込むように擦る。

「すき、あぅっ! すっ、きぃ……っ、これぇ」

 彼女は両手を口元に当てて叫びそうになるのを耐えた。ぬるぬると何度も擦り続けられ、幾度となく達してしまう。急に強くなったと思えば、物足りないくらいの優しさになる。七海の指を上から押さえて、気持ちいい所に自分で当てながら好き勝手にイキまくる。もう何が何だかわからない。あれだけ怖かった七海とのセックスが、今となっては快感しかなく際限なく求めてしまう。もっとイキたい。気持ちよくなりたい。きっとあのペニスを入れたら、もっと気持ちいいだろう。彼女はぼんやりする頭で、この先を想像した。今まで味わったことの無いような快楽が待っているに違いない。

「ななみ、も、おく、ほし、からァ……、ゆび、いれてェ」

 断れるはずもない誘いに嬉々として乗った七海の中指が、膣道をゆっくりと開いて進んできた。ずっしりと質量のある猛々しい指なのに、動きは優しく繊細だ。粘膜を傷つけないようにゆるゆると出し入れして、中で折り曲げてみたり、擦ってみたりといやらしい動きをしている。もちろん彼女はその度に悦んで、何度も深々と達した。くちくちと粘液の音が響き、いつもの寝室が淫猥な空気に満ちている。愛する女性が七海を欲して腰をくねらせおねだりする様を見て、我慢できる男など存在しない。

「ん……っ! はぁーッ……、ああぁっ」
「可愛い。もっといっぱい、気持ちよくなって」

 ずっぽりと自身の指が飲み込まれている陰部を目の当たりにして、七海は抗いきれない衝動を必死で押さえていた。全身を七海に預けてだらしなく足を開き、どろどろの密壺で指をくわえ込み腰を震わせている。何度達しているか数えきれない。彼女をもっとぐずぐずにして、可愛がりたい。

「も、くる、きちゃ……ッ」

 ついにはびしゃびしゃと潮を吹いてしまい、ベッドが水浸しになった。

「あ、ご、ごめん、なさ……」
「リラックスできてよかった」
「ななみにもう、きてほしい」

 開いた足が少し閉じたが、濡れそぼった秘部はひくひくと痙攣して快感の余韻を物語る。だらりと流れ出る愛液を指で掬い、陰核につけた。震えながら快感を享受する彼女が愛おしくて仕方がない。彼女の言う通り、そろそろ、いいだろうか。

 そっと避妊具を取りだすと、彼女が装着しているところをじっと見ていた。何も言わずに待っていたので、了承の意であると受け取る。薄いラテックス製のコンドームの中で窮屈そうにする七海のペニスを凝視する彼女の表情は、欲しくて欲しくて堪らないと言っているように見えた。二人で深い深呼吸をして、息を呑む。七海が彼女に覆いかぶさるように近づくと、小さな声で「来て」と聞こえた。七海がこれ以上ないくらいに勃起したペニスを支えて、彼女の中心部に宛がう。ぬるぬるしていて、温かい。特に反応がないので少しだけ推し進めてみる。鬼頭が彼女の中にじわじわと埋まっていく。

「痛いですか」
「ンうッ……なんか、ミシミシする、けど、だ、だいじょぶ、です」

 更に少し進めると途端に窮屈になってきた。潤いは十分で、何度も達して迎え入れる準備は万端だ。それでも想像以上の質量が押し入ろうとしているせいか、さきほど指でほぐしたときとは違い彼女の中はきつく閉ざされていた。

「無理しないで」
「し、してない……。まだ、まだいけます!」

 もう少し進めると、またギチギチときつく締め上げてきた。やはり無理をしているのだろうと彼女の表情を窺うと、目にいっぱいの涙を溜めていた。

「い、いったァい……! ちょ、っと、ストップ……」

 フゥフゥと息を整えながら七海の顔をぺたぺたと触った。熱く火照る手のひらから、拒絶ではなく需要の意思を感じる。それでも泣いている姿を見ると、自分の欲望のために無理をさせているのではないかと感じてしまう。

「すみません。やはり、今日はもう――」
「も、少し、だからッ……」

 彼女の腕が七海の背中に回って、優しく撫でた。それからあの部屋でもそうされたように、腰の辺りをゆっくりと押さえつけ始める。もっと進めといわれている。七海は彼女に合わせてペニスを押し込んだ。きつくて狭い膣壁をかき分けて進むと、コリコリとした何かに当たる。子宮口まで先端が到達したとわかり、お互いにほっとして力が緩む。すると彼女の中も少し緩んで、中がうねうねと蠢いているのがわかった。もう少しだけ、進んでみる。彼女の子宮が押し上げられ、呻き声が出た。

「うぅ……、も、痛くないよ。七海が、やさしく、してくれたから……」
「もう二度と傷つけたくない。痛みは」
「無いから、うごいて」
「このままでも十分だと言いたいところですが、良いと言うなら動きたい」

 七海がゆっくりと腰を引くと、名残惜しそうに中が吸い付いてくる。離すまいとされているようでなんだか気分がいい。半分ほど抜いたところで、奥へとすすめる。ブジュブジュと音を立てて穴の脇から粘液が流れ出てきた。進んだときに良い所を引っ掻いたようで、彼女の下半身がビクビクと痙攣した。うっとりとした表情を浮かべ、半ば無意識に七海の唇を求める。もっと欲しいと七海に抱き着いて足を絡め、離そうとしない。そうこうしているうちに中が激しくうねり、また腰を跳ねさせて深々と絶頂を味わっている。

「ふー……っ、んぐ、ゔ、ゔぅ……っ。きも、ちいい……」
「信じられないくらい興奮してる。ずっと夢見ていた。アナタが私の腕の中にいる事を。これは現実ですか。ここにいるのは本当に、ずっと私が好きだった人でしょうか」

 もう前も後ろも、現実も虚構も区別がついていないような気がする。頭がぼうっとして、自分では無いような感覚だ。つい何週間か前まで、二人は気持ちを隠して遠ざけ合っていた。それが今では身体をくっ付け、唇をねだり、愛の言葉を囁き合っているだなんて。

「へん、なの……。ななみと、本気のエッチ、しちゃってる……」
「もう、離したくない。ずっと一緒にいる。どこにも行かないで。約束です」

 七海が彼女を強く抱きしめた。苦しくて息ができない。すっかり七海の形になった穴がヒクヒクと疼いて返事をした。

「うん、うん……、わかってる。七海って、本当は、寂しがりなんだ」
「はァ、はァー……ッ、絶対、ですよ」
「わか、った……ってばァ……ッ」

七海はもう止めることができず、彼女の中を何度も往復した。相変わらず狭いが、侵入を許されている。深いところまで突いて一気に引き抜くと、彼女は全身を震わせて悦んだ。奥に押し付けたまま先端を擦り付けると、呻いて喘いで深く果てた。幾度となく繰り返される快楽の波にのまれ、彼女がぐったりとした様子で息を荒げている。

「大、丈夫、ですか……」
「七海とするのが、こんなにきもちいいんだって、噛み締めてたの……」

 彼女がそう言い終わると、七海が激しく律動を始める。

「あッ、あァ、や……、やァ」
「フーッ、も、出るッ……」

 奥歯を思いきり噛みしめ、今にも精を吐き出しそうになるのを堪えた。まだ彼女と繋がって痛い気持ちはあるが、限界が近い。このまま中で思いっきり射精して、性的な快感に浸りたい。

「ンッ……、いい、よ……。きて、ななみ……。すき、すきなの……」
「奥、出すッ……! 出るッ……! あーッ、出る……ッ!」

 ぴたりと密着して、二人して抱きしめ合った。思いきり奥に突っ込んで、押し付けて、コンドーム越しにびゅるびゅると射精する。頭がおかしくなるんじゃないかと思う程の耐えがたい快感が二人の身体中を駆け巡り、出しながらぐりぐりと性器を押し付け合って、快感を貪った。びくびくと竿が震える様子がありありとわかり、彼女はその動きだけでまた達してしまった。陰嚢がぎゅうぎゅうとせり上がり、一滴残らず彼女の中へと吐き出そうと蠢いている。本能的に奥へ進もうとする動きをしてしまい、薄皮一枚なければ確実に孕んでいただろう。そう思うほど濃密で、激しく、深く愛を確認することができるセックスだった。あの部屋でのセックスを上書きするように、二人は何度も愛し合った。

 ついに彼女から休憩を申し出て、今、二人はタオルケットに包まりながら息を整えている、。少し離れようと彼女がごそごそと這い出ると、七海が追いかけ抱き着いて離さない。後ろから抱きかかえて何度も首筋や背中にキスをして、愛しているんだとか、早く引っ越してこいだとか、ずっとボソボソ喋っている。

「……もういっそ結婚した方がいいのでは」

 柔らかい、気持ちいい、離したくない、の後に、一段と小さな声で七海が呟く。 何かのついでか、とってつけたようにされたプロポーズが七海らしいと彼女は笑う。そう言う肝心なことは、声を大にして言うべきだ。まあそんなことができるのならば、今までこうはならなかったというのはわかっている。

「……いいけど」
「けど、なんですか。条件があるのなら言ってください。まあ何を提示されてもすべて飲みますが」

 いつものように早口で急かす七海を真っ直ぐに見つめて彼女が言う。


「ずっと私だけ、死ぬまで好きでいてくれる?」


 彼女の返事を聞いて、七海は大きな溜息を吐いた。そんなこと、今更聞くなんてどうかしてる。


「ずっとアナタだけを死んでも愛すると誓います。保険金の受取人を変更しましょう。遺言書も書き直します。式を挙げるとしたら二人だけにしませんか。一緒に居られる日は絶対に一人で風呂に入らないでください。それから――」

 今までの七海とは随分違う態度に驚きを隠せない。何でも条件を飲むと言った七海が、長々と自分の希望を語っているのを彼女が遮り言う。

「もうわかったってば。七海ってよく喋るんだね」
「言葉にしないとわからないと理解したからです」

 さも当たり前のように言う七海を見て、彼女はまた笑った。紆余曲折ありここまで来るのに随分かかった。この先も七海に付き合うのは面倒なことが多いかもしれないが、楽しそうでもある。妙な部屋のせいなのか、それともおかげなのか、二人は晴れて恋人同士となったのだ。





 壁男です。なかなか会えない二人を高専内で再び閉じ込めようかと画策していましたが、なんとかなりました。このまま末永く幸せに暮らして欲しい。一旦引きます。お互い生きていたら、また会いましょう。
 扉子です。やめなさいと言ったのに、壁男さんったら家まで行っちゃったみたい。もうあの二人だけでよくないかしら? まあでも、何かあったときのために待機はしておきましょう、壁男さん。