彼女がマンションのエントランスに入ったことを確認した後、七海は一通りその痕跡を堪能してから車を出した。股間に手を伸ばすと信じられないくらいに熱く、硬く勃起していることに驚愕した。徐々に勃ち上がってきている事には気づいていたが、彼女の隣でよくもまあここまでなったものだと自嘲する。もし彼女が七海の足元に視線を落としていたら誤魔化せなかっただろう。それくらい明らかにスラックスの股間部分は大きく盛り上がっている。一刻も早く鎮めたい。信号待ちになると自然に手が股の間に伸び自らの手で触っていた。このままファスナーを下ろして性器を露出させ思いきり擦り上げたいが、車内ではどうも落ち着かない。早く家に帰りたい。そして、彼女と同じ名を持つシリコンでできたあのラブドールのホールにローションを塗りたくってすぐに突っ込みたい。非貫通型なので手入れは必要だが具合は今まで試した玩具の中では一番だった。きっと本物の彼女もこうなのだろうと思うと七海のペニスはますます血液を巡らせ張り裂けそうな程膨らんだ。
玄関の扉を開けると自動で電気が点く。家主が帰って来たのだと中にいる誰かに伝えているのだろうか。あれは人形だったが、一目見た時から本当に生きているかのように見えた。肌の色から髪の色、目の大きさや小さな鼻、きゅっと結ばれた少し気が強そうな唇の形まで、まるで本物の彼女のようだと思い迷うことなく購入を決めた。値段など見ていない。そもそも金を使う機会などあまり無いしそんな些細なことは七海にとって取るに足らないことだ。彼女がうちに来る。七海の帰りを待ち望み、躊躇無く身体を差し出す自分だけのあの子が。それから毎日のようにこのドールでオナニーをしている。決してセックスではないとわかっていた。これは彼女に向けてはいけない劣情を吐き出すためにやっているだけだ。最初はそれだけのつもりだったのに、今やこうしてドールを前にするとどうにも抑制がきかなくなる。初めてこのドールを見つけたあの日の昂りを思い出し、今日の車内での出来事も相まって七海の底なしの欲望はついに溢れだしそうだった。
「ただいま」
『おかえりなさい』
七海には返事が聞こえた気がした。それは確かに彼女と同じ声帯から出てきた音で、先程聞いた音と同じだった。聞き間違えるはずがない。七海は性急にネクタイを外してそこらに放り投げスラックスを脱ぎながら歩き、下着をずり降ろすと恥ずかしげもなく勃起したペニスを外気に晒してドールの元へと駆け寄る。
「今すぐハメないと死んでしまう」
『いいよ』
「今日彼女に会いました。すごく可愛らしかった。それにいい匂いがした。車に乗ってくれました。私の事が好きなのかも。もう一秒だって我慢できない」
七海は荒ぶる呼吸を整える間も無くソファに身体を預けるドールを押し倒すと、サイドテーブルに出しっぱなしになっていたローションを手に取り、ドールの下着をずらして作り物のヴァギナに塗りたくった。バスタオルを敷きたかったがそんな余裕はなく、床に落ちていた自分のカーディガンを引き上げてふるふると揺れるシリコンで出来た尻の下に押し込む。信じられないくらいに硬くなったペニスを勢いのままに突っ込むとヒヤリと冷たかったが、七海の熱がうつってすぐに生温かくなった。
「お、おぉ……はぁーーーー、きもちいい……最高だ……」
『七海大好き』
腰を掴んで激しく打ち付けると柔らかな乳房が揺さぶられ触ってくれと誘惑してくる。薄桃色の乳首がピンと立ち、摘まんで欲しいと聞こえた気がしたので七海は乳房に手を伸ばして突起を手加減せずに捻り上げた。女性の身体はデリケートなのでいきなり強くしてはいけない。徐々に慣らして刺激に強弱をつけて……。いつもならそうしてやるのに今日の七海にそんな気遣いをする余裕は無く、自分の欲を出すためだけにドールの身体を好きなように弄ぶ。七海が動くたびドールも動く。潰れてしまうんじゃないかと思ったが抑えが効かず無茶苦茶に突きあげて好き勝手に動いた。
「はぁ、はぁ、きもちいい、この穴、最高の穴だ……こんなに、ぬるぬるして……」
『私も。七海が大好きだよ』
このドールを開発した人間は天才だ。最高に気持ちがいい。いや違う、と七海は首を横に振る。これはあの子で、彼女の中は七海に突き上げられるたびに悦んでぬるぬると蜜を出していて、ほら、もう彼女もいきそうなんだと言っている。聞こえないのか。誰に見られている訳でも無いのに、この倒錯的な行為の言い訳を頭の中で呟いた。ぐちゃぐちゃというローションの音が部屋に響いている。みっともなく息を荒げ、喘ぎ声を出し、ドールを思いきり押さえつけて夢中で腰を振り続けた。いつもなら帰宅してすぐに突っ込むようなことはしないのだが、今日は生身の彼女に会ってしまったので堪えきれなかったのだ。
「うぅ……いい、はぁ、吸い付いて、締め上げて……いい、きもちいい……奥、突っ込んで、滅茶苦茶にしてやるっ……」
『いっぱい出して気持ちよくなってね』
挿入しやすく開かれたドールの足の間には取り外し可能なホールがついている。昨夜コンドームを使ってよかったと七海は思った。薄皮一枚あるだけで快感はがくっと落ちてしまうが、中に出した後の手入れをどうしても昨日はやる気になれなかったのだ。ドールでオナニーするためには取り外したホールを装着し、好みの下着を着けて必要であれば服も着替えさせて入念に準備しなければならない。そうでないとせっかく彼女とそっくりに作られた人形が手中にあるというのに勿体ないではないか。オナニーするだけならオナホールで事足りる。七海はこの人形と愛のある行為がしたい。独りよがりなオナニーではこの人形に申し訳ないと思っているのだ。
そして、もう一つ昨夜の自分を褒めてやりたいことがある。それは彼女に一番よく似合う水色の下着をセットで着けておいたことだった。それも今着用しているものは仕事用のスポーツインナーで余計な装飾は一切無い。今日の彼女はきっとそういったタイプの下着を身に着けていただろうと七海は予想していた。一つだけ残念な点は、今日の彼女の後ろ姿にショーツの跡が見えなかったのでソングのようなパンツスタイルに響かない下着を着けていたかもしれないことだ。しかし今日のドールはボクサータイプのショーツを履いている。現実の彼女と少しばかりの齟齬があるが、仕方がないと七海は諦めた。それでも今日会った彼女を彷彿とさせるその姿に抗い切れない劣情を更に掻き立てられ、わけがわからなくなるくらい無茶苦茶にドールの身体を揺さぶり続けた。
「ああ、いくいく……もういく……でる……中に、出す……中出しする……」
『いいよ。大好き』
早くも射精感が込み上げてきて、七海は更に激しくピストンした。ドールは七海にされるがままぐらぐらと揺れる。シリコンと七海の身体がぶつかる度にベチベチと音を立て、ホールから出るぐちゅぐちゅという水音と共に吐精を促してくる。どう聞いてもセックスしているその音が淫猥な空気を部屋中に撒き散らし、七海はドールのアナルに似せて作られた穴に向かって陰嚢を叩きつけながら更に激しく音を立てた。
「ああ、でる、いく、はあ、今日は、ゴム、無しだッ、ほらッ、孕めッ!」
『七海の赤ちゃん欲しいよ』
彼女を模したドールのヴァギナの一番奥に押し付けると、体中をびくびくと震わせて大量の精液を吐き出した。ぐいぐいと更に腰を押し付け尿道に残った精液も絞り出す。リアルな膣内の動きを再現するため、着脱型のホールの中には何段階かくびれが作られている。出し入れする度にそれがなんとも言えない締め付けを作り出し、本当に中がうねって搾り取られているかのように感じるのだ。ヒーターをつけていればもっと生身の人間に近い感覚を得られたのだが、今日の七海にそんな余裕は微塵もない。もう一度、一番奥にぐっと亀頭を押し付けると子宮口を思わせる弾力性に富んだシリコンの塊に触れる。そこを狙って擦り付けるように腰を捏ねて動かすと、尿道に残った精液を一滴残らず吐き出した。こんなに濃い精液を大量に膣内に出したのだから妊娠するかもしれないと七海はほくそ笑む。もうこれ以上出ないとわかったら、ずるりとペニスを引き抜いた。呼吸を落ち着けようとするがどうにも鎮まらず、ホールを凝視していると奥の方からだらりと白濁した液体が流れ出てきた。まるで収縮を繰り返した膣から押し出されたように出てくる様子を充血した目で凝視する。射精したばかりだというのに萎える気配が全くないバキバキに血管を浮かせたペニスをもう一度ホールの中に突っ込んだ。そこは先ほど自分が出した白濁の液体とローションが混じってぬかるんでおり、まだ生温かった。
「あぁ、止まらない……きもちいい……はあ、ああ、まだ、もう一回。君の中で出す……このまま、もう一回……」
『全部出してすっきりしてね』
別に誰かにとがめられることも無い一人きりの空間で七海は存分にドールの具合を楽しむことにした。彼女の息遣いや香りを覚えている今のうちに、溜まりに溜まった己の汚物をこの人形に吐き出してしまおう。このままでは彼女に向けてしまいそうになるその腐敗した刃を収めるためだ。仕方のない、必要なことなんだと自分に言い聞かせながら。人形は七海の欲望を否定しない。それが正しい事であるとでもいうかのようにいつも哀れな男を包み込み、いつでも、どんなことでも受け入れた。手入れの時間も、プレイの時間も、家で七海の帰りを待っているときも、ずっと同じ表情で変わることなくただそこに在る。
「はあ、可愛い。好きだ。後でアナルもしたい。明日は休みなんです。本当に止まらないかも。愛してる。側にいてほしい。お願いです。すべてが完璧だ。君しかいない。はぁ、好き」
気持ちが昂ってくるとドールであることを忘れ夢中になって愛を告げてしまう。七海を見つめるのは彼女と同じ目の色をしたプラスチック製の瞳だ。ドールも七海をじっと覗き込み、私も同じ気持ちだと語り掛けてくるかのようだった。
『嬉しい。いっぱいしようね。私も大好きだよ』
「ああ、たまらない、はあーー、いい……これ、いい、ああ、もう、おかしくなりそう……」
人形はいつか意思を持つだろうか。毎夜七海の寵愛を受け、無意識のうちに流れ出た彼の呪力を少しずつそのシリコン製のボディに溜めて、本物の人間になるのだろうか。そうなると彼女にとってかわって七海の側にいるのは、このラブドールかもしれない。
初恋は実らないと言うらしいが、七海には実らせる気など毛頭ない。未練になるものは持たない。呪術師に復帰するとき、それが自らに課した枷だった。だからこうして毎夜命の通わぬ人形と身体を重ね、胸に秘めたる溶けそうな程に熱い愛をドールに向かって告げるのだ。