珍しく高専で会い、たまたま帰宅時間が重なった。それだけだった。帰りの足が無いと言うから送っていくと申し出てみたら、何も疑うことなく私の車に乗った君。君はご多分に漏れず黒ずくめだったが、動きやすさを重視してボディラインに沿った服を好んで着用している。助手席を開けるという口実のもと、緩やかなカーブを描く体つきを舐めるように眺めてしまった。君の身体はもう男を知っているのだろうか。君以外に触れることさえ出来ず、この歳になるまで私は女を知らない。君に触れたい。でも出来ない。私は知っている。自分がどれ程欲深いのかを。触れたら最後、止まるところを知らない。取り返しのつかないことになる。だから今世では君の隣に並ぶことができないのだ。
君はそんな私の視線に気づかず、ありがとうと礼を言って普段は誰も座ることのない助手席に乗りこんだ。それだけで私の胸は高鳴り、抑えきれない歓喜が体中を駆け巡って脈が速まっていくのがわかる。車の中という動く密室に二人きり。ハンドルを持つのはこの私で、このまま真っ直ぐ君の家に行く保証は無いんだと心の中で薄笑いを浮かべているなんて事は知らないだろう。そんな何も知らない君は何の疑いもなくシートベルトを締めて自らの身体を拘束している。なんでもない。君にとっては単なる同僚の車に乗るだけだったのだろう。今日の任務が酷かったと愚痴をこぼしていたが、話の内容はほとんど耳に入ってこないんだ。君の声を頭の中に刻み込むことに必死で音にばかり集中してしまった。
短くて嫌だと補助監督に漏らしていたその可愛らしい睫毛が私は好きだ。毎朝起きた時にうねるからという理由で伸ばしているその髪をきっちりと一つにまとめている姿が美しい。汗とシャンプーとお気に入りのレモンのハンドクリームが入り混じった君の香りが更に気分を高揚させる。どうしようもない。頭の中で君は毎日私のいいようにされているのを知らないだろう。既に罪悪感はない。そうしないと最早、この形を保っていられないからだ。
そんなことを考えている間に君の家に着いてしまった。私はさっさとシートベルトを外す君の姿を眺めることしかできない。乗った時同様に礼を言うと君は降りていくのだろうな。まだ行かないで欲しい。同じ空間で呼吸出来るだけでも嬉しかったのに、もっともっとと望んでしまう。可愛い声をまだ聞かせてくれ。漏れ出た笑い声を瓶に閉じ込めたい。髪の毛一本でもいい、君の身体の一部を譲ってくれないか。その声が、笑顔が、仕草の一つ一つが愛おしくて仕方がない。本当は君を手に入れたい。自分だけのものにして閉じ込めて、誰にも触らせたくない。今日こそ君の手を取って、今夜は帰したくない、うちに来てくれと誘ったらどんな顔をするだろう。
「今日は送ってくれてありがとう。助かったよ」
「いえ、お困りだったようなので。お疲れ様でした」
君が座っていた助手席に指先だけで触れてみる。温かい。ここに君のヒップが当たっていたんだと思うと心臓がどくんと音を立てた。以前高専で聞こえてきた会話を思い出す。お尻が大きくて恥ずかしいと漏らしていた相手は君の後輩だが男なのに、なんてことを言うんだと思った。それに私はそんなに大きいとは思わない。柔らかそうでとても魅力的なのに、それが君のコンプレックスなのかと思うと可愛らしくて胸がぎゅうぎゅうと締め付けられ、甘い気持ちでいっぱいになるのだ。更に助手席に身を乗り出し座席に顔を近づけて残り香を胸いっぱいに吸い込んだ。少し蒸れた汗のような匂いと、わずかに血液の匂いも混じっている気がする。生理中かもしれない。これが君のヴァギナの芳香なのだろうか。一日中働いて、何度排泄したのだろう。どんな下着を付けていて、それを誰かに見せることはあるのか。座席をなぞるように手を当てていくと、君の気にしているその丸みを帯びたヒップがさっきまでここにあったんだと思い更に鼓動が早くなる。いけないことをしているとわかっていても止めらない。今すぐ、ここに、舌を這わせてしまいたい。自然と手がペニスに伸びていく。こんな私の姿を見たら君はどんな顔をするんだろう。
この世界に未練を残さないと決めている。もし今君を手に入れてしまったらきっと私は均衡を保てなくなる。来世で君に再会できるまで、それまでは誰のものにもならないで、ずっと私のことだけを待っていて欲しい。その時は必ず愛を伝えよう。