ありあわせで作る冷製パスタ

第5話

「ストップ! 顔が怖い。やめて」

 無理矢理ベッドに押し倒した女の股間に膝を割り入れ、強引に足を開かせようと躍起になっている七海の目は、獣のようにギラついていた。下敷きになった女が何か言っているが、全く聞くつもりはなさそうだ。大人オブ大人はどこに置いてきたのか、欲望の化身となった七海が息を荒げながら女を組み敷く。押し問答をしていると、七海の膝が女の下半身に滑り込む。下着の布は湿っているし、明らかにぬかるんでいる。やはり、こうされることで女も興奮しているのではないか。そう思わずにはいられない。一体どれだけの時間、想い続けてきたのだろう。想像と妄想で形作られた女の偶像を脳内で散々いいようにしてきた十年間。本物が無防備な恰好で眼前に横たわっている。これを目にして止めることなどできるわけがないだろう。据え膳食わぬは男の恥というではないか。

「やっとここまできたんだから、離すつもりはありません。どこにも行かせない」
「いちいち重いって」
「こんなになっているのにやめてくれだとか、嫌だとか、一切聞かない。腹をくくれ。覚悟しろ」
「言い方がヤのつく職業のそれ……!」
「余裕そうですね。私はまったくありません。散々、煽ってきたくせに」

 なんとかこの場をやり過ごそうと茶化す女を睨みつけ、頬を片手で鷲掴みにして七海が言う。怯えた目の色でさえ今の七海の興奮材料となるようで、何を言っても逆効果だというのにいつまでも抗ってくる女を屈服させてやりたくなってくる。それでも屈しないと強い光を宿す瞳をみて、七海は大きなため息をついて頬から手を離した。いいかげんにしてくれないと、酷くしそうになる。奥歯を噛みしめ、必死に自分を制しようと試みるが、猛る欲望はそう簡単には治まらない。

「出張の時もわざとでしょう。散々人の気持ちを弄んで。そのあともなんでもない顔をしてよく来られましたね。アナタはひどい。本当に。人の気も知らずに!」
「怖いから! 落ち着いて! 深呼吸でもしてみよ? ほらな……?」

 女は持てる限りの力で七海の胸を押し返す。全くびくともしない。本気の男には敵わないんだとわかり、恐怖で背筋が凍る。このままじゃ、ヤられる─。

 七海は静かに深呼吸をしてみた。でも、この程度では落ち着けそうにない。そもそも眼前で半裸になり秘部を火照らせる意中の女を見て、誰が落ち着けるというのか。この熱に浮かされた身体をどうにかしなければ気が狂いそうだ。女の肩を押さえつける七海の手はひどく汗をかいていた。怒りなのか興奮なのか、七海も女も、もう何もわからなくなってしまっている。

「なぜそんなに嫌がるんです」
「だって……」
「なにか問題でも? お互い想いあっている男女のすることはひとつでは」
「性欲に支配されないで七海」
「ごちゃごちゃ言ってないで、正直に何が問題なのか言ってくれれば考慮します」

 今すぐにでも爆発しそうな股座を女の太ももに押し付けながら、七海は更に女に迫る。確かに、無理矢理するのは不本意だった。女が適当なことを言って誤魔化そうとしているのでなければ、何か理由があるはずだ。それを素直に聞かせてくれて、正当性があれば、止めなくもない。多分。恐らく。検討はする。

「……この、これ、当たるのが、めちゃくちゃ大きそうで、こわい!」
「アナタまだ触ってもないし見てもいないのに。実際に確認してから言ってください」
「アッ! あかん! 出さんといて! なおして!」

 片手で女を押さえつけながらベルトのバックルに手をかけ外そうとすると、女が七海の手を包み込むようにして制した。弱々しい力で必死に止めようとしている。細い指と小さな手。男の力に到底抗えるものではない。女はなんとか時間を稼ごうと、指を絡めてみる。しばらくすると七海の力が抜けて、女に馬乗りになったまま大きなため息をついた。

「はあ、この不毛な攻防……。やるんですか、やらないんですか。従いますからハッキリしてください」
「……やります」
「最初から素直になればいいんです」

 女の瞳に恐怖が見えたが、その奥底には欲情が潜んでいる。やはりこの女は、力尽くで屈服させられることを望んでいるのだろうか。

「アナタいつもわかりにくくて。なぜいつもそんな減らず口を叩くんですか」
「七海こそいつもボソボソ言うくせに」
「もういい。足をしっかり開いて。自分で触ってみたらわかります。どうなってますか。教えて」

 耳元で七海が囁く。女の足を開いて持ち上げ下着をずらし、ぬるぬると粘液を滴らせる女の陰部を露出させた。女の手をとり自身の性器へと導いてやる。既に言い訳できないくらいどろどろと溶けていて、与えられる刺激に悦んでいた。

「ぅぐッ……、も、やめて……。ゆるして……」

 強制的に自らの性器に触れさせられ、分かってはいたが信じられないくらいあつく濡れていることを再確認してしまった。反対の腕で顔を隠しながら、ボロボロと涙を流す。七海はその動きを止めることなく、女自身の手を使い溶けた恥部を蹂躙した。ぐちゃぐちゃという水音が嫌でも耳に入ってくる。べとべとに濡れたその指を七海は見せ付ける様に舐め上げた。その様を見て、女は小さな悲鳴をあげ手を引いて抵抗した。もちろん敵うわけもなく、七海は力ずくで女の手首を引っ掴み、もう一度口に含む。なんとも言い難い、淫猥な味だ。七海の赤い舌が女の白い指に絡みつき、粘液が糸を引く。まだ手を振りほどこうと必死に捻っているが、やはりどうやったって敵わない。そんな女の姿を見て、七海は痛いくらいに勃起していた。嗜虐嗜好でもあるのだろうか。そんな趣味はないと思っていたのに、人間とはわからないものだ。女の涙が頬をつたいシーツを濡らす。抵抗は完全に止んだ。もう抗う気はなくなったらしい。

「泣いてるところ申し訳ないんですが、ここまできて止めることはできません。アナタのせいです。はァ、本当に、今、なんと言ったらいいのか……。アナタが私の下敷きになって悦んでいるのを見るのは、とても気分がいい」
「ぅう……、ななみ、」

 口をへの字に結び七海に組み敷かれた女はその目からとめどなく涙を零す。圧倒的な体格差でこれ以上の抵抗は無意味だと理解したのだろう。怖いはずなのになぜだろう。女の下半身はひくつき、さらに濡れそぼっている。七海はそれを見逃さず、執拗に刺激し続けた。そのうち女は音を上げ、七海のされるがままとなった。それからお互いに何度も絶頂し、避妊もそこそこに、本能のままセックスし続けた─。



***



「……という夢を見ました」
「報告が長いし詳細すぎて引く」

 おはようの挨拶もそこそこに、あらゆる部位へ執拗にキスを落としながら七海が言う。手をとり指を絡め、情熱的な瞳で見つめられながら、もう逃げられないと女は悟った。七海の瞳は肉食獣の如くギラついている。

 昨夜は半ば強引に七海の住む都内のマンションへ引き入れられ、絶対に何もしないという条件のもと七海と女は一夜を共にすることになった。しかしふたを開けてみれば、七海が思うのと女が思うのでは〝何もしない〟の基準が違っているようだった。シャワーの途中で入ってくるわ、トイレの外で待たれるわ、何をするにもあとを着いてきて七海のその愛の重さにたじろいだ。挙げ句の果てには何度もキスされ、なし崩し的に胸をまさぐられ、そのつど牽制してなんとか挿入だけは免れたものの、昨夜のあれはもはや、ほぼセックスだった。触られまくっているうちに段々と女もその気になってしまったが、七海があまりにも調子に乗っているのでこのまま流されるのは癪だと思い、執拗に密着してくる七海を押して引いて遠ざけた。今後の二人の関係性がどうのこうのと適当に理由をつけて、その逞しい身体をなんとか引き剥がす。そんな攻防はしばらく続いたが、二人はとても疲れていたのでいつの間にかぴたりとくっついたまま眠ってしまった─。というのが昨日の夜。続けて七海が昨夜みたという淫夢の内容を語り出す。

「夢の中のアナタはVIOすべて脱毛されていて驚きました。現実のアナタはどうか確認させてください」
「妄想がリアル! みてこのサブイボ」

 身を守るため固く閉じた女の身体を抱き寄せ、首元に鼻先を埋めながら話し続けた。

「アナタが私に必死に許しを乞うている姿は、正直に言うと、かなり興奮した」

 そう言いながら、七海は女の手を自分の勃ち上がった下半身へと導く。

「今も」
「おまわりさーーん!」

 七海の陰茎は熱く猛っていた。なんとか逃れようと身をよじる女の唇を強引に塞ぐ。これ以上何も言わせまいと舌を捩じ込み黙らせた。苦しそうに呼吸をする女の吐き出した息さえも逃したくない。

「約束通り一晩手を出さなかったので、観念してください」
「……は、はい。優しくしてください」
「もちろん」

 女は目を閉じて七海を受け入れる覚悟を決めた。もうここまで来たらやるしかない。女は度胸。それから気合いと根性で人生はなんとかなるものだ。

 セックスの後の気だるさに覚えはあるが、こんなに心が満たされることは未だかつて無いと、ベッドに腰掛けながら着衣を整える女をみて七海は思った。背中に絡みつく視線に気づかないふりをして、振り返ることなく女がつぶやく。

「なんかめちゃくちゃお腹空いたなあ」
「まあ私の上であれだけ激しく腰を振って─」
「ストップ、ストップ! 言わんでいい!」

 気色悪い発言を制止しようと、女が慌てて七海の口を塞ぐ。ここまできたら何も気にすることは無いのか、七海は女の手をべろりと舐めた。驚いて手を引っ込めた女を見据えて言う。いつも散々振り回されているのだから、たまには仕返ししてやりたくもなる。

「事実です。良かったんですよね」
「……はい」
「素直でよろしい。何か作りましょう」

 下着一枚で寝室を出てシャワーも浴びずにキッチンへ立つ。冷蔵庫を確認するがほとんど空っぽに近い。いくつかの調味料と缶ビール。ミネラルウオーターが何本か。七海が呟く。

「はぁ。何も無い」

 続いてパントリーを開ける。ここもまた、何も無かった。なんとかならないかと端の方に倒れていたトマト缶と、半分ほど残ったカッペリーニを取り出してみる。ダメ元でもう一度冷蔵庫を開けると、チルドルームに生ハムの切り落としを見つけた。その存在をすっかり忘れていたせいか、消費期限が切れそうだ。しかし、これだけあればなんとかなるだろう。七海は浄水器から汲んだ水をコップに入れ、ひとつは未だベッドに腰掛けてゴソゴソしている女に渡してやった。

「先にシャワーを浴びましょう」
「お先にドーゾ」
「一緒に」

 有無を言わせ無い七海の圧力に押し負け、女はもう抵抗することなく手を引かれて行った。 脱衣場で裸になると七海の視線が突き刺さる。己の変態性を隠すことなく全開にしてくる七海に少々引きつつも、女はせっかく着た服をまた脱いだ。一晩であれだけ盛り上がってしまい、これから先を考えると不安になる。七海は疲れ知らずなのか絶倫なのかなかなか射精せず、ようやく出たと思ってもすぐに復活してきて、何回戦までいったのか記憶にない。ブラジャーをそのまま洗濯機に放り込むと、七海が「洗濯ネットを買わないと」と呟いた。無視してショーツも脱いで、これもそのまま突っ込んだ。少々派手な色だが気に入っている上下揃いの下着セットだ。すぐに引き剥がされたので、七海はきっと下着には興味が無いのだろうと女は思った。七海の視線は未だに女の身体に釘付けだ。一挙手一投足を見られており、何か言いたげにしている。

「もう。何? たいした身体ちゃうやろ」
「やはりハイジニーナ……。正夢……」

 女の陰部をじっくりと眺めながら、満足げに七海が言う。角度を変えてまで見つめてきて、さすがに気味が悪い。

「七海の想像力に百年の恋もさめるわ」
「さっきは暗くてよく見えなかった。最初に触ったとき、おや、と思ったんです。ハメたとき確信
に変わった」
「ハメ……⁉ 言い方!」
「密着感が最高に良い」

 女は耳まで赤くしてバスタオルで身体を覆って隠す。今更隠すものでもないと七海はそのバスタオルを剥ぎ取り、バスルームに女を押し込んだ。泡立つボディタオルを隅々に滑らせ、七海の手のひらが女の身体をまさぐった。時折「柔らかい」とか「気持ちいい」とかうわ言のように呟いていて、熱に浮かされているとしてもどうかしている。シャワーにかこつけて七海に身体を暴かれながら、女はこれから先の生活に不安を感じた。ボディソープを流し浴室から出ようとすると、やんわりと静止され、バスルームに留まる。もうここに用はないはずだ。七海は黙ったまま女の薄い肩を掴み、回れ右で後ろを向かせた。そのままバスタブに手をつかせ、尻を突き出した女の後ろ姿を眺める。そっと尻たぶを左右に開き肛門と陰部に顔を近づけて、観察し始めた。

「なぜここまで脱毛したんですか」
「そこ掘り下げる? 生理の時にもじゃもじゃしてたら気持ち悪いから。それだけ。お願い、もうやめて……」

 陰唇を開くとその中が未だにたっぷりと潤んでいるのがわかる。七海はそのまま後ろから覆いかぶさり、身体を密着させてゆるゆると腰をゆらす。早くも勃起した陰茎を女のやわらかな臀部に押し当てて擦りつけながら甘い吐息を漏らす。女はもういい加減にしてくれと思いながらも、性的な刺激に身体はビクビクと震えて悦びを露わにした。

「続きは後にしましょう」
「続くの、これ……」
「当然です。その前に腹ごしらえを」

 七海の腹の虫が盛大になったので、助かったと女は安堵した。

 さて、気を取り直して料理にとりかかろう。七海はエプロンをして慣れた手つきで準備し始める。一方女はというと、ソワソワと落ち着かない様子で辺りを見回しながら二人がけのダイニングテーブルで待機していた。

「後々言うと揉めるかもしれへんから先言うとくけど」
「私が死んだ後のことはまとめてあります」
「いやだからいちいち重い。そうじゃなくて私、料理全然できません」
「私もいつも作るわけじゃない」
「作ったことないってレベルやから」
「作りたい時は私が作ります。無理なら外かテイクアウトで」

 会話をしながら七海は大きな鍋にたっぷりと湯を沸かしていた。これでもかと塩を入れ、ぐつぐつ煮立つそこに細めのパスタを放り込む。なんだか高そうなガラスボウルにトマト缶を入れた。あいにくホールトマトしかなかったので、手でトマトを潰していく。そして一口サイズにちぎった生ハム、オリーブオイル、レモン汁、すりおろしたにんにくをほんの少し。スプーンで味見をしながら塩コショウを少々。混ぜ合わせた具材は短時間でも冷やすため、ボウルごと冷凍庫に入れておく。

「へえー。すごい。テキパキしてるな」
「アナタにうまいものを食べさせたい」
「お母さんありがとう!」
「お母さんではなく、私は、アナタの夫、です……」

 二人は途端に目を逸らし、うつむいて笑った。七海は自分で言っておきながら、照れ笑いして語尾が弱々しくなっていくのが可笑しかった。女はその表情が愛おしくて可愛らしくて、心がきゅうっと締め付けられたあと、奥のほうがポカポカと温かくなった。まるで初めて男女交際をする中高生のような気持ちだ。

 そんなこんなで、そろそろパスタが頃合だ。流水で洗ってから氷水を張ったボウルにカッペリーニを入れて、よく冷えたらしっかりと水気を切って、先程冷凍庫へ入れたソースと混ぜ合わせる。

「後ろの引き出しに皿があるはずなので出してもらえませんか。揃いのものはありませんが」
「ここ?」

 女は七海に言われた通り平皿を二枚取り出す。七海はトングを使い器用に盛り付けた。手馴れたその動作に感心する。まるで料理番組の一場面のようだ。

「バジルでもあれば良かったんですが。彩り不足ですみません」
「美味しそう!」

 目を輝かせる女を見て七海は嬉しそうに笑った。彼女の喜怒哀楽全てが愛おしい。まるで思春期の子どものようにふつふつと沸き上がりおさまることのないこの衝動をどこにぶつければいいのだろう。今すぐ抱きしめて唇を奪い、そのまま互いの存在を確認し合いたい。七海の手料理が彼女の体内で代謝され、細胞をつくって血肉と成る。いらないものは排泄されて、必要なものだけを取り込んで、七海が与えた栄養素で命をつなぐのだ。その過程を考えると背筋がむずむず痒く、駆け出したくなる。原子レベルでこの女を愛している。涙もため息も、血も肉も、女の全てを取り込みたい。この感情の行き先はどこなのか。七海は自分の中にある薄暗く不気味な感情を女に気づかれないうちに小さくしてしまい込み、平静を装って話しかけた。

「飲み物が何も無くて水しかない。朝っぱらから酒を飲むわけにはいきません。昨日何か買って帰れば良かった」
「水で十分。早く食べよ! お腹ペコペコ」

 待ちきれない様子の女がそそくさとパスタを運ぶ。七海はちぐはぐのグラスに水を入れた。食洗機の中に入れっぱなしだったフォークを取り出し、女に手渡した。パスタを食べるのに適したフォークがひとつしかなかったので、七海は自分用に箸を出す。すると女は箸の方がいいと言うので、交換してやった。こんな他愛のないやりとりすべてに幸せを感じる。それが一緒に暮らすということなのだろう。

『いただきます』

 エネルギーに満ち溢れた女の声と、静かに燃える男の声が重なった。七海は女の一挙手一投足を観察し、反応を伺った。誰が作っても失敗しようの無い簡単なものだが、期待に答えられるだろうか。七海の心配をよそに、女はすぐさま食べ始めた。箸でパスタを挟み、口へと運ぶ。大胆に大きく開いた口に吸い込まれていく。頬を膨らませモグモグ咀嚼して、喉を鳴らしてごくりと飲み込む。首を縦にブンブン振りながらキラキラと瞳を輝かせ、女は七海を見つめた。

「めっちゃ美味しい! 誰に習ったん?」
「誰にも。本を見て適当にやってました」
「適当でここまではいかんと思うで!」

 トマトの爽やかな酸味。生ハムの芳醇な味わいと程よい塩気。シンプルな味付けだが素材の味を生かしている。女はニコニコと頬を緩ませながら黙々とパスタを平らげていく。よほど腹が空いていたようだ。早々に皿を空にした女が、パスタを食べる七海をじっと見つめていた。

「食べにくいんですが。……欲しいんですか?」
「えー⁉ いいの?」

 遠慮のカケラもなく女は言い、アーン、と大きな口を開ける。七海がフォークでまとめたパスタをそこへ入れてやると、満足げに微笑みムシャムシャと食べた。女は終始上機嫌で「七海は天才シェフや!」などと大袈裟な誉め言葉を繰り出しながら、美味しいと言っては口を開けて待つ。七海のパスタをもう一口、これで最後だと言いながらほとんど食べてしまった。これまで七海は、自分が食べたいものを食べたいときに好きなだけ作ってきた。けれど、これからは違う。愛する人に手料理を作り、食べてもらうと嬉しいという当たり前のことにとても幸せを感じていた。

 腹が満たされれば心も満たされる。女は率先して食器を下げキッチンに立ち、作ってもらったのだからせめて後片付けをしようと考えた。しかし、後ろから音もなく近づいて来た七海に抱きしめられ、動けない。

「さっきの続きをする約束は」
「一段落したら一回帰らしてな」
「終わってから。一回だけですよ」
「拉致。監禁。変態」
「双方合意の上です」

 これ以上の問答はいらないとばかりに、七海は女のうなじに優しく噛み付いた。既に興奮度は最高潮に達しているようで、女の耳元で呼吸を荒げている。前を向かせた女に手を差し伸べると、何も言わずに手を取った。うつむいて恥ずかしそうに口をへの字にしていたが、抵抗はない。静かに手を引かれてベッドへ誘導されていく。
「幸せです。私のそばにアナタがいる」

「仕事とか、家とか、色んな事が心配や私は」
「そんなもの、なんとでもなる」
「あ~あ。もう好きにして……」

 身体を抱えられベッドへごろんと転がると、すぐに七海が覆い被さる。女はずっしりと重い体重を感じながら目を閉じて、首元にある七海の頭を撫でてみた。なんだか駄々っ子のように感じたからだ。しばらく大人しく撫でられていたが、小さな吐息のあと女の手を優しく払い、仰向けに寝転んだ。きょとんとする女の手を取り自身の腹の上に跨らせると、腰をさすったり臍を押したりしながら女の身体を観察した。しばらく隅から隅まで見て、触れて、確かめて、ようやく七海は身体を起こして女の唇にそっと触れる。それがはじまりの合図となり、二人はまたひとつに溶け合うのだった。