無垢な君はまるでアナーヒター

第3話

 彼女を救い出してから数日後。結局、例の呪詛師の行方はわからないままだった。逃げ延びた先でまた彼女のような被害者が生まれていることを考えると、七海の胸は鉛のように重苦しくなった。後から聞いたのだが、彼女が行方不明になったのも呪詛師を追っていたときらしい。そうすると恐らく、今回七海が担当した件の主犯と同一人物である可能性が高い。何が目的で彼女のすべてを踏みにじってまで生かしたのだろう。彼女の能力は対人に有利というわけでもなく、対呪詛師任務へ派遣されたことには全く納得がいかない。個人的に追っていたようでも無くすべてが謎だった。もしかしたら特に理由など無いのかもしれない。人手不足の業界から無理矢理あてがわれた仕事で運悪く拘束され弄ばれただけの可能性もある。七海の頭の中ではぐるぐるととりとめのない想像ばかりが膨らんでいく。あまりの惨状に何か意味でもないとやっていられないと思ってしまうのが人の性なのだろう。

 確かに落ち込んだしショックでもあったが、七海は無理矢理気持ちを切り替えてできるかぎり彼女の元へと顔を出した。ぼろぼろだった身なりは身体を拭いてもらったり頭を洗ってもらったりして日に日にましにはなってきている。それでも浮いたあばら骨や落ちくぼんだ瞳を見ると元気になったなどとはとても言えない。今はもう奇声を出すことは無くなり、ときおり質問に対して小さな声で答えられるようになったと聞く。しかし内容は支離滅裂で記憶が混濁しており、場所も今の自分が置かれている状況も、今日が何月何日かさえもわかっていない。突然立ち上がろうとしたりベッドの上を這いまわったりするので、落ちないように抑制帯で縛られ、日がな一日身体をベッドに固定されていた。ベルトを外そうとネジをくるくる回すことに躍起になっている姿を見て、七海の胸はまたずっしりと重くなった。彼女をこんなにしてしまった奴を殺してやりたい。逃げおおせた先でのうのうと暮らしていることを考えるとはらわたが煮えくり返る。少ない情報をかき集めたところによると、臓器売買は表向きの稼業で、裏では生きたままの愛玩人形が作られていたということだ。依頼に合わせて完全オーダーメイド。機械には無い反応が重宝され、高値で取引されていたと聞く。こんなことを考えて実行する奴も、そしてそれを欲する奴も、すべからく拷問にかけて考えうる限り最も残酷な殺し方をしないと気が済まない。そんなことを考えながら拳を強く握る七海の様子に気付いた彼女はその瞳に不安の色を浮かべた。七海ははっとして手を開く。

「何も心配することは無い。大丈夫」

 まるで自分に言い聞かせているようだと七海は思った。それでも彼女は七海の言葉を聞いてコクリと小さく頷いた。手を洗おうと聞いてみると再び頷いたので七海は彼女の手をとり、温かい湯につけ、たまった垢を丁寧に落とし、爪をきれいに整えてやった。丁寧な手浴を終えると、おとぎ話に出てくる悪い魔女のようだった手はすっかり綺麗になった。ぽっと赤みが差し、そこだけ人間の色に戻っている。七海の指を掴んだきり離さない様子は生まれたばかりの赤子みたいだ。助け出されたときに見た七海が刷り込み現象のようなものによって、彼は安全であると認識しているのかもしれない。

「ありがと、ございます」

 たどたどしい口調だが確かにそう言って七海を見つめた。心なしか笑っているようにも見える。七海の心はぎゅっと掴まれたように切なくなった。きっとこれは喜びだろう。回復の兆しが見えたせいだ。少しずつでいい。もとに戻れたら、彼女が行きたいところへ連れて行こう。これからは食べたいものを食べ、やりたいことをやってのんびりと過ごせばいい。もう呪いなんて祓わなくていいし、誰にも煩わされずに好きなことをして生きる。少しずつ失った人生を取り戻させてやりたい。そんなふうに七海は思った。

「次は顔を拭きましょう」
「は、い。わかり、ました」

 ほかほかと湯気が立つホットタオルを顔に当てると、彼女はうっとりとして目を閉じた。頬がピンクに色付いていく。そのまま首筋もそっと拭いてやると大きな深呼吸をした。大人しく身を任せる姿を見て、七海なんだか救われたような気さえしてきた。助け出したあの日から今日まで、己の人生のすべてを後悔しなかった日は無い。あの日、あの時、何か彼女のために行動していたら違った未来があっただろうと何度も何度も考えた。そんな七海が今、彼女の世話をすることで、高専と決別したあの日の罪悪感を中和しようとしているのかもしれない。それとも、逃げたことで残してしまった同期への贖罪のつもりだろうか。もう一度彼女を見つめてみる。未だにあの日の面影は全くない。骸骨のようにやせ細り、まだまだ薄汚れていて嫌な臭いがする。心も身体も蹂躙され人間としての尊厳を根こそぎ奪い取られてしまった。あの部屋で何度夜を迎えたのだろう。ただ唯一変わらない長い睫毛が医務室の蛍光灯に照らされてきらきらと輝き、教室で居眠りしているかつての彼女を想起させた。見た目も中身もずいぶんと変わってしまったが、確かに、にがく苦しい日々を共に過ごしたあの子なのだ。
 点滴と軽い食事で身体の中の調子をゆっくりと整えていく必要があると家入が彼女へ説明しているのを聞きながら、七海は彼女のこの先の人生を案じた。七海の記憶の中に存在する彼女のように笑ったり、泣いたり、怒ったりする姿を再び目にすることができないかもしれない。
 それからしばらくベッドサイドでこまごまとした世話を一通りした七海は、主治医である家入の許可を得て買ってきたショートケーキを二人分冷蔵庫へ入れて立ち去った。彼女と家入のぶんだ。彼女は昔から甘いものが大好きだから、きっと二つとも欲しがるだろうと思ってほんの少しだけ目元を緩めた。

 多忙を極め一週間ほど高専に立ち寄れずにいた七海が久しぶりに医務室を訪れたとき、引き戸にかけた手を一瞬止めてしまうほど七海は驚いた。扉の向こうから彼女の明るい笑い声が漏れ聞こえてきたからだ。先週聞いた弱々しく掠れた声ではない。幼い子どもがはしゃいでいるような、にぎやかな声で笑っているのだ。きっと良くなったに違いない。そう確信した七海は喜び勇んで扉を開けた。医薬品のにおいが漂うそこには、ベッドに座ったまま机の上でクレヨンを広げ、殴り書きをしている未だガリガリにやせ細っている彼女の姿があった。彼女は七海を見つけるとニコニコ笑って身体を前後に落ち着きなくゆすった。幼稚園児が友達を見つけて喜ぶような様子を見て、七海は安堵よりも先に不気味さを感じてしまった自分に驚いた。彼女の回復を願っていたはずなのに、現状をうまく呑み込めないでいる。別れの日に見た彼女とは程遠い振る舞いと、子どものように甲高い歓声が耳にへばりつく。見た目は先週よりも若干肉がついているようには思う。それに清潔になっている。嫌な臭いはもう無く、彼女へ近づくと量産品の石鹸の香りがした。幾分マシになっているにもかかわらず、七海は目の前に広がる不可解な光景を受け入れることができないでいる。成人女性が子どものように振る舞う姿を見て違和感を覚えない人間はいないと己に言い聞かせながら、彼女のベッドサイドへと歩み寄る。家入の気のない挨拶に適当な返事をしつつ、自身の戸惑いを悟られないよう彼女へと声を掛ける。

「こんにちは。随分と調子がよさそうだ」
「ななみだ!」

 手を叩いて喜ぶ姿はまさしく幼児のものだ。聞き覚えのある童謡を口ずさみながら机に広げたキャラクターのぬりえにぐるぐると線を描いている。見た目が彼女でなければ、さぞや微笑ましい光景だろう。しかし目の前にいるのは大人の女でほとんど骨と皮。頭をふらふらさせながら黒と茶色ですべてを塗りつぶす様子は異様以外に言い表す言葉が無い。七海は自身に湧いてくるネガティブな感情を抑えられないでいた。彼女に対してこんな気持ちを抱いていいわけが無いと何度も頭の中に浮かぶ黒いものを消し去っても、次から次へと浮かんでくる。かつて見た強く美しい女性はどこへいってしまったのだろう。自分が彼女をこんなにしてしまったのではないか。誰か助けてくれと心の中で叫んでみるが、目の前の医者は表情を変えずに彼女の傍らでぬりえを眺めているだけだ。

「何をしているんですか」
「ぬりえをしてるの!」

 彼女は嬉々として指差しをしながら、七海へキャラクターの説明をした。何が何だか皆目わからない七海は、頷いて聞くことしかできなかった。今塗られているのはフルーツをモチーフにした妖精のようなものたちがパン屋になっているイラストだ。すべてのキャラクターが黒で汚く塗りつぶされている。七海は大学へ行ったが心理学を学んだわけでは無いので、これがどういった意味を持つのか詳しくは知らない。それでも彼女の精神状態がまともでないことだけはわかる。空白の四年間に一体なにがあったのか考えたくも無いが、彼女をここまで変えてしまう、耐えがたい苦痛があったことは間違いない。

「君がもっと元気になったら、どこかへ出かけよう」
「おそとにいきたい」

 いいでしょ、と上目遣いで七海に許可を求める彼女の瞳は未だに白っぽく濁りがある。頬はこけて眼窩は落ちくぼみ、口元はたるんでいるからまるで老人のように見えて、言動とのちぐはぐさに頭の中がぞわぞわと震えて警笛を鳴らしている。七海は彼女の問いかけにすぐ返事をすることができなかった。こんな調子では、到底外出できそうにない。今も頭が支えきれないのかふらふらと揺れているし、座っているだけでやっとのことだ。七海が言い淀んでいる様子を見て、彼女は表情を曇らせた。悲しそうに俯いて目には涙を溜めている。泣きだしそうな顔を見て七海の心臓はびくりと震えた。どうしたものかと考え、「約束します」と返事をして彼女を喜ばせることにした。七海の考え通りに彼女は大変喜び、いつ行くのかとしつこいくらいに何度も尋ねた。
 家入はそんな二人の様子を見ながら紙カルテに本人しか読めない字で何かを書き込んだ。幾重にも重なる呪いと非人道的な方法で手を加えられた肉体。身体の方は回復の兆しがあるものの、病状は複雑怪奇で決して楽観視はできなかった。精神のほうはいつ崩壊してもおかしくないほど不安定にも関わらず、高専へ戻ったときのような状態からは脱したと言える。どうやら記憶の一部をどこかへ隠して退行することで、なんとか自我を保とうとしているらしい。家入の隈はますます濃くなっている。常に冷静で中立的に見える家入でさえ手を焼いているとわかり、七海はいたたまれない気持ちになった。

 それからまた数日。カラリと晴れた昼下がり。今日の家入は幾分人間の顔色を取り戻していた。ここのところは泊まり込まず交代で診ているらしい。かなり状態が落ち着いてきたようで、日中は簡単なリハビリを始めたという。近況を報告し終えると、家入は七海と入れ違いに食事をとるため出て行ってしまった。多少目を離しても大丈夫だという事がわかり、七海はひとまず命の危険は去ったのだと理解した。ベッドの傍らに腰掛けて彼女へいつものように問う。

「調子はどうですか」

 大抵はたどたどしく「げんき!」とだけ返ってくるのだが、この日は様子が違った。声のする方を向いて真っ直ぐに七海を見据え、にこりと柔らかく微笑んだ。それからそっと七海の手を取り、はっきりと落ち着いた口調で喋った。

「七海が助けてくれたんだね」

 それはまるで過去の彼女に戻ったようだった。いつもの子どものような振る舞いは無く、ゆっくりと言葉を紡ぐ。そこには年相応の女性がただ座っているだけのように見え、七海ははっとして息をのんだ。すぐに反応できずに固まっていると、続けて彼女が口を開く。

「ずっと夢を見てたみたい」

 そう言って辺りをゆっくりと見回した。油の切れたロボットのようなぎこちない動きだが忙しなさは無く、落ち着いた様子で医務室内を眺めている。高専の頃と何も変わらない風景にほっとしたのか、彼女の肩の力が明らかに抜けた。そして骨と筋が浮き上がった自分の手を握って開いて見つめながら、自嘲気味に笑う。

「情けないな。なんでこんなになっちゃったんだろ」
「君は何も悪くない。情けなくもない。生きててくれてよかった。それだけでいい」

 矢継ぎ早に言う七海を見て困ったように眉を寄せる姿はかつての彼女そのものだ。途端に胸の奥底からどっと熱いものが込み上げてきて、七海は泣いてしまいそうになった。助けたことを後悔しているわけでは無いが、ずっと死の淵から無理矢理引き戻してしまったような気がしていた。十重二十重の呪いと残虐な方法で手を加えられた身体のすべては元に戻らないと言われ、この先の彼女の人生を心から案じた。生きているだけでいいなどととても言えない姿になってしまった彼女を見て胸が苦しかった。それでも、今日ようやく彼女は自分の意思をはっきりと示した。七海は自分のしてきたことが彼女にとって良かったと言われたようで報われたと感じた。
 七海が彼女の細い手を握る。密林の廃工場で見つけた時と違い、今は清潔で温かい。綺麗に整えられた爪は先日七海が切ってやった。彼女の自我が戻ってきた。きっとこのまま、今よりもずっと良くなるに違いない。何の根拠も無いのに希望だけがどんどんと膨れ上がり、破裂してしまいそうだ。肩を震わせる七海を見て、彼女は不思議そうな声を出して問う。

「七海は、どうしてこの世界に戻ってきたの」
「それは、」

 予想外の問いにすぐに答えられずにいると、彼女は自身の手元に両手を持っていってプププと笑ってみせた。目元は弧を描き頬は緩んでそれはいたずら好きな子どもがやるような仕草で、一気に嫌な予感が押し寄せる。

「ななみが、ないたぁ!」

 アハハと声を上げて笑い、キャッキャと手を叩く。せっかく彼女が元に戻ったと思ったのに、また幼児のようになってしまった。彼女はまだまだ不安定で治療が必要だ。身体も心もバラバラになって苦しんでいる。少しずつでいい。焦ってはいけない。七海は自分に言い聞かせ、箱の中からプリンとゼリーを取り出し、彼女の目の前に差し出した。

「昔から甘いものが好きでしょう」

 甘党の彼女とは趣味が合わず、七海と灰原と三人だったとき、よくくだらないことで口喧嘩をしていたことを思い出す。かつての彼女はグラスに入ったオーソドックスなカスタードプリンをよく買っていた。季節限定のフレーバーを買っては五条と一緒に楽しんでいる姿を横目に、七海はいつも参考書を読むふりをしていた。一度だけ七海もこっそりと同じものを貰ったことがある。口当たりはよく滑らかで、とても美味しいプリンだった。ストロベリーだの抹茶だのと先輩後輩入り混じり大騒ぎで取り合いをしていた日々からずいぶんと経ったが、まだ喜んでくれるだろうか。

「うれしい!」

 彼女は七海の期待通りに喜んだ。お日様のような笑顔を浮かべてプリンをぱくぱくと口へ運ぶ。たまに口の端からこぼしてしまうので目が離せない。口元をべちゃべちゃにしながら彼女は言う。

「おいしいねえ」
「また買ってきます。しっかり食べて、早く良くなって。一緒にお外へ行くんでしょう」
「いつおうちにかえれるの」
「もうすぐです」
「はやくかえりたいなあ」

 病衣の裾で口元を拭いながら彼女が言う。一瞬かつての姿へと戻ったように見えたのに、また退行してしまった。幾重にも重なる呪いのせいなのか、耐え難い現実からの逃避なのか七海にはわからない。見た目に反して幼児みたいにケラケラ笑う彼女を見て、なんとも哀れだと七海の胸が軋む。なんとかして助けてやりたい。そう思うのは彼のエゴではないはずだ。
 それから次の日も、その次の日も、どんなに遅くなっても七海は彼女の元へと足しげく通った。今日はご飯を全部食べただとか、一人でおしっこに行けるようになったとか、日々少しずつ自分でできることが増えていき、満面の笑みで教えてくれる。お土産にお菓子やおもちゃを持っていってやるととても喜んで、七海のことが大好きだと言う。車いすに乗せて散歩に連れて行ってやると葉っぱや花を集めて喜び、ごっこ遊びに付き合った。さようならをする時は決まって早く家に帰りたいと言って、七海を困らせた。泣いて引き止めたり、怒ってそっぽを向いたり、なんとか気を引こうと悪戦苦闘する姿はいじらしくもある。見た目は瘦せっぽちの成人女性だが、何も知らない純粋無垢な少女のように振る舞う姿は七海の脳みそを大変に混乱させた。彼女との関わり方の正解がわからない。それでも手探りでやっていくしかない。そんな日々を送るうち、次第に七海は彼女の保護者のような気持ちになっていった。おそらく彼女に関わる誰もが、似たような感情を抱いていたと思う。家入でさえ彼女の欲しがるものはなんでも与えてやり、医務室はまるでおもちゃ箱をひっくり返したようにモノで溢れていた。そして同期のよしみか罪悪感からか、誰よりも七海が彼女にのめりこんでいった。
 七海は今日も歩けるようになった彼女を介添えしながら廊下を行ったり来たりする。そんな七海と、早く帰りたいと頑張る彼女の姿に人々は胸を打たれた。何もかも失ってボロボロに傷ついても、またやり直せるんだという希望を彼女に見出したのだ。皆の望み通り、一進一退しながらも彼女は少しずつ良くなっていった。ときおり年相応の女性のように振る舞うことがあり、それは突然やってきて、また突然終わってしまう。どういった瞬間にそうなるのか解明できないままだが、その時に七海は思うのだ。彼女はまた自分の人生をやり直せる、と。不思議なことに、彼女の回復を願っているのにも関わらず、この日々がずっと続いてほしいとも思っていた。七海を見つけるとニコニコと笑顔になり、手を握って隠すことなく真っ直ぐな好意を向ける。来てくれて嬉しい。待ってたよ。一緒に居て。大好きなの。何度も彼女の現状と言動を照らし合わせて、これは呪いと病がさせていることだと自分に言い聞かせても、彼女の口から出てくる〝好き〟という二文字を聞くとそれまでの考えは一瞬にして遠ざかってしまう。七海がまだ今よりも若くて未熟だったころ、彼女へ向けていた感情は特別なものだった。たった三人の同級生。大切な友人の一人が亡くなったとき、変わらず側に居た女性。好きだとか嫌いだとか、そんな単純な感情で片付けることはできないが、好意ではないとも言い切れない。愛かと聞かれるとそれも違う。七海はこの感情につける名前を知らない。
 今日も七海は時間を作って彼女の元を訪ねる。昨日より良くなっていることを願いながら扉を開けた。

「ななみが、きてくれたっ!」

七海を見て満面の笑みを弾けさせた彼女がよろめきながら走ってきた。十代の頃より広く逞しくなった胸に何の下心もない透明な〝好き〟をぶつけられて七海の心は大きく揺れた。