贅沢な広さのバスルームにはシンプルだが上質な調度品が並び、ラベンダーが仄かに香っている。七海は私をシャワールームの中で降ろすと、高級ブランドのアメニティを手に取り戻って来た。しかしなぜか苦笑いしている。どうしたのかと尋ねると、言いにくそうに視線を泳がせた後おずおずと答えた。
「さっきは急いでいたので気づかなかったのですが、」
「え、どうしたんですか……」
「バブルバスがあった」
「そりゃあ、良かった……ですね」
七海が肩を落としながら湯船の栓を抜こうとするので慌てて制止する。また後で入れなおせばいいと言うと、なるほどと腕を組んで頷き納得したようだ。
そして、どこから持ってきたのか、ミネラルウォーターのボトルを私へ差し出した。ホテルのロゴがプリントされており、いかにも高そうに見える。七海は洗面台にもたれ、ごくごくと飲んだ。上下する喉仏が官能的で思わず息をこらして盗み見た。本当にどこをとっても作り物のように美しい。
なぜこの男とこんなことになってしまったのだろう。七海ほどの者であれば誰もが放っておかないはずだ。仕事においても恋愛においても失敗など考えられない。己の信念を曲げず、他者を尊重できる人格者。最前線で敵前に立って怯むことなく向かって行く強さと、戦況を俯瞰して戦略的に動くこともできる。彼のことを悪く言う人を見たことがない。片や私はというと、術式さえ持たず学生時代から昇級することもなく生き残り続けてきた。得意といえることなど一つも無いし、たまに駆り出される討伐任務では隅の方で茶を濁し、なんとか高専の教職にありつき口に糊をしている。こんな人間が、彼の隣に居ていいはずがないのだ。
私の視線に気づいたのか、七海は怪訝そうな表情で「何か」と言って顔を近づけた。
「なんでもないです。喉乾いてたんですね」
「腹も減ってます。今日は食事に誘ったのに、あなたが駄目だと言うから」
「だって、私たちそんな関係じゃないですから」
「まだ言いますか。……お腹すいてるくせに。後で何かルームサービスでも頼みましょう」
七海は空のペットボトルを屑籠に放り投げ、シャワールームへと入ってきた。スクリーンの中でしか見たことのないレインシャワーに感心していると、むくれながら七海が言う。
「頭と身体を洗わせて欲しいと言ったはず」
「まだシャワーを浴びただけです」
「最初から最後まで、全部したい」
私はシャワーを止めて肩をすくめ、もう諦めて七海の好きなようにさせることにした。クレンジングの使い方がわからないというので教えてやると、私の顔にぺたぺたと塗って撫でるように肌を滑らせ化粧を落としていく。私の顔を覆ってしまうほど大きい手のひらが、ぐいぐいと肌を押した。これで優しく触れているつもりなのだ。七海に触れられたらどこでも、そのすべてから彼を意識してしまう。七海に触ってもらえて嬉しい。ほんの少しでも長く彼を独り占めしていたい。なんと卑しいことだろう。私一人が独占していい人物ではない。彼にはもっとふさわしい人がいるはずだ。そんな私の後ろめたさなど露知らず、七海はふわふわに泡立てた石鹸で機嫌良く私の顔を撫でている。シャワーで流されて目を開けると真剣な表情でこちらを見ていた。きっとひどい顔をしているに違いない。
「すっぴんなのであまりジロジロ見ないでください」
「自分で尻を開いて入っているところを見せていたのに、恥ずかしさの基準がおかしい」
「あれは七海さんが無理矢理させたんです!」
「でも気持ちよかったでしょう」
「……変な事ばっかり言うから嫌い」
「思い出してまたしたくなるからやめて、という意味ですね」
七海に優しく触れられて折角少し甘い気持ちになっていたが、彼の言う通りだった。欲深い私は奥の方がじくじくと疼くのだ。そんなことはお構いなしに七海は丁寧な手つきでシャンプーをして、コンディショナーを終え、ボディタオルで身体を洗ってくれた。痛くないか、気持ち悪いところはないかと穏やかな声で聞かれ、手の先から足の指まで丁寧に泡を滑らせていく。また何か変態的ないやらしいことを考えているのではないかと疑っていたが、七海はただ奉仕したくてたまらないだけらしい。身体に泡が残っていないか入念に調べると、満足そうに口角を上げて私の唇にキスをした。
今度は私が七海を洗ってやる番だ。七海は「お願いします」と言って長身を折り曲げ身を屈めた。私は少し背伸びをして、垂れた頭の濡れた髪にシャンプーをつけ泡立てる。少し硬めのブロンドが泡だらけになり、頭をマッサージすると気持ちよさそうにしている。コンディショナーはいらないと言う。ボディーソープで全身を洗ってやると、されるがままの七海は満ち足りた表情をしていた。それから目を閉じてじっと動かなくなったので「終わりましたよ」と声をかけると、腰を折って顔を近づけた。どうやらキスしろということらしく、リクエストに応えて七海の唇を甘く嚙む。彼は痛いと言って仕返しに私の首筋に歯を立ててふぅふぅと鼻で息をしている。そんなに強く噛んだつもりはないので、私もまた七海の胸元を食んでやり返した。しばらくじゃれ合っているとそのまま抱きしめられ、目の奥の方、脳の中心が熱くなり幸せな気持ちが溢れ出す。いけない、また勘違いし始めている。彼に愛されているんだと錯覚してしまう。
「楽しかった。またしましょう」
「または無いんですってば」
私がそう言うと、七海は途端に拗ねたような顔をして静かになった。
「どうして意地の悪いことばかり言うんですか」
「約束だからです。七海さんこそ、済し崩そうとしないでください」
七海は小さな声でわかってると言い、私を抱く力を強めた。彼の髪から垂れる雫が私の目に入ったから、泣いている事には気づかれなかったと思う。
私が湯船に浸かると七海も入ってきて、たっぷり溜められた湯はざあざあと溢れて排水溝へと流れてゆく。二人で向かい合って入っても十分にゆとりがある広いバスタブだった。七海が戻ってきてからきちんとヘアセットされた姿しか見たことが無かったので、髪を下ろした姿を見ると懐かさがこみ上げる。
「学生の時の七海先輩みたい」
七海は少し照れて髪をかき上げると、濡れて束になった毛の先端からぽつりと水滴が落ちた。昔から背は高かったが、体つきはもう少し華奢だったような気がする。努力で生き残ってきた人なので相当鍛えたのだろう。
「あなたもあの頃とそう変わらない。ずっと可愛い後輩のままです」
「私ってかわいい後輩だったんですね。七海先輩には嫌われてると思ってました」
「……そんなことはない」
瞳をわずかに揺らし冷たく言い放つと、七海はそれきり口を噤んだ。ちくりと胸の奥が痛む。表情こそ変えなかったものの、先ほどの声色から動揺が伺えた。目を閉じて呼吸を整えている。揺らぎのない静かな湯面に彼の鼓動が小さな波紋を規則的に生み出した。これは七海にとって触れられたくない部分だったのだ。私はつまらないことを言ってしまったと俯いて目を閉じた。なんとか弁解しようと口を開く。
「戻ってきてくれたから、また会えて嬉しかった。本当です」
「私もあなたが生きていてくれて良かったと、心の底から思いました」
七海は何かを諦めたように力なく笑った。
「ずっと気がかりだった。死んだんじゃないかと。連絡する勇気もなく、会う事もできず」
「変な事言ってごめんなさい。私まだ生きてますよ。端っこの方で皆に助けて貰いながら」
「謝る必要はない。こうしてあなたと今、一緒にいられるからそれだけで十分です」
もうこの話は終わりだと七海は言うと、私の身体を抱き寄せ腕の中に閉じ込める。再び私の背中と七海の胸がぴたりと着いた。私に表情を見られたくないようだ。七海はそのまま私の肩口に顎を乗せて頬に口づけて濡れた髪を耳にかけると、耳輪を舐め「私は自分勝手なんです」と呟いた。何かを誤魔化して、私の機嫌を取ろうとしているのだとわかる。どうしても彼そのものには触れさせてくれない。それが解ったから辛かった。彼の胸の中は広くて温かくて心地がいいが、七海に刺されたところがじわじわ膿んで周囲に広がっていく。私の中には入ろうとするくせに、彼の中には入れてくれない。愛なんて囁かなくていい、そのすべてを見せて欲しいのに。
私を抱く手が緩んだので、身体を捻って彼の首に腕を回して七海の顔を見る。表情は無かった。まだくだらないことを考えているに違いない。それを口に出してくれたら私たちは近づけるはずだ。そのまま彼の唇に自分の唇を押し当ててみる。彼の唇は薄いが、触れ合うと柔らかさを感じる。それなのに胸の中は冷えていく。七海は私のキスに応えて、大きな手で頬を固定してぬるりと舌を侵入させた。尻に当たる陰茎が緩く勃起する。その気になってきたのだろう。私が舌を押し返すと、七海もまた押してきた。次第にお互いの口の中を貪るような淫猥な動きへと変わっていき、七海の手が私の胸に触れた。乳房を包んでやわやわと揉むと先端が少し硬さを持つ。胸を掴む彼の指が少しずつ中心部へ寄り、指の側面で乳頭を押した。直接的な刺激が腰の辺りを痺れさせる。身体が次第に熱を持ち、男を欲しているとわかる。尻の肉で彼の股の間を擦ると先ほどより硬さを増したものに触れた。それを触って感じたくて手を伸ばすと、もう十分に起立していた。
「お風呂でしたらのぼせちゃいます」
「でもしてみたい。あなたと風呂でセックスしたらどうなるのか」
「誰としても一緒です」
「……今はそんなこと言わないでください」
七海は大きなため息をついて私を離すと立ち上がった。湯船の水位が減って私だけが中に取り残される。眼前に七海の陰茎があったので口の中に迎えようと近寄ると、「そんなことしなくていい」と言って私を抱えて立ち上がらせ、バスタブへ手を突かせた。そっと私の陰部に手を伸ばし、湿潤の程度を確かめる。言い訳できないくらいに濡れそぼっていた。七海が腰を落として先端で陰核を数回擦ると抵抗できない快感が押し寄せ、自分から七海の陰茎を掴んで固定し、ぐちゃぐちゃになった中に導いた。肉を掻き分けて私の中に進み入る。一気に最奥まで入っていくと、すっかり降伏している私の生殖器に亀頭を押し付けた。
「強情だ。なぜ折れない」
「ん……ッふ、七海さんも同じでしょッ」
「……さっきのやつさせてください」
「えっ、いやッ」
「約束と違う」
私の意見など聞くはずもなく、先ほど同様下腹部を圧迫しはじめると逃れられない尿意が迫ってくる。チェックインしてから既に結構な時間が過ぎており、その間一度もトイレに行っていないので膀胱の中には血液を濾過して生成された尿が随分溜まっていた。このまま押されると、本当に出てしまう。
「お願いですっ、やめて、お湯が汚れるっ」
「やめない。湯は抜けばいいです。どんな姿でもあなたなら受け入れられる。見せてください。隠さないで」
「いや、いやですっ、本当にだめ! 出ちゃう!」
「いいですよ。出してみせて」
わざとらしく奥へ突っ込みぐりぐりと責めながら尿で膨らんだ膀胱を押すと、陰茎で押し上げられた子宮にぶつかっていとも容易く果ててしまう。しばらくは強い快感に全身の力が入っていたが、波が少し引いて脱力した途端に激しい尿意をもよおしてしまい我慢できなかった。
「あっ、あ、ひっ……出ちゃ……」
七海はまた腹の下を強く圧迫すると耐え切れずに排出されたものがチョロチョロと音を立てて私の大腿を伝い、湯船に淡黄色の液体が流れ込む。その間も下腹部にあてがわれた手はぐいぐいと奥へと抑え込まれ、膀胱の中に溜まっている尿を押し出そうとした。
「うッ、う……出ちゃった、ごめんなさい、汚い……」
「出ちゃいましたね。可愛い。我慢できなかったんですね。仕方がない」
一度起こった排尿反射を途中で止めることができず、私の尿道からでた液体は勢い無く出続ける。七海はそっと私の大腿に手を這わせ、股の間から流れ出る生温かい尿に触れた。
「触らないで!」
「大丈夫ですよ、何も汚くない。最後まで出し切ってすっきりしましょう」
情けなさで涙が流れ出る。子どもを諭すような口調が余計に羞恥心を煽った。目から溢れ出る体液もぽたぽたと浴槽に溜まっていく。まだ執拗に腹の下を押える七海の手を振り払おうとするが、まるで歯が立たなかった。
「泣いてるんですか。顔を見せて」
「絶対に嫌!」
やめてくれというのに七海は無理矢理私の身体を捻って頬を強引に掴んで口づけた。そのままずるりと陰茎を引き抜いたと思うと、奥まで一気に突っ込まれる。少し勢いが落ちていた尿が押し出され、またショロショロと音を立てて流れ出た。
「あぁ……やだァ……止まらない……」
「可愛い。突かれながら上手におしっこできて偉いですね」
「言わないで……」
苦しいやら、恥ずかしいやら、気持ちいいやら、感情がぐちゃぐちゃで考えがまとまらない。浴槽の湯は波立ちバシャバシャと音を立て、七海と私の濡れた身体がぶつかって下品な水音がバスルームに響く。湯で温まった尿からわずかにアンモニア臭が漂ってきて、このまま消えてしまいたかった。
「もぅッ……やめて、抜いてください、七海さん嫌いッ!」
それからしばらく七海の動きは大人しくなった。ぬるぬると緩く私の膣の中をなぞるように生ぬるい動きをしている。その隙になんとか腕を伸ばして排水栓のボタンを押すと、私の口腔内を蹂躙していた舌が引っ込んでいき「勝手な事をして」と注意を受けた。それから七海は律動を止めて、何か言いたげな表情で私の顔を覗き込む。
「実は、私も我慢してまして」
「えっ……」
「少しばかり非道かなと思い、あなたの事を尊重したいので無理にとは言いませんが」
「……はぁ」
「後で中まで綺麗に洗ってあげますから……。あなたの中で排尿してみたい」
「そんなのッ……駄目に決まってます!」
最早叫び声に近い鋭い声を出してしまったが、その行為を何としてもやめさせたかった。だって意味がわからない。人の体内に排泄しようだなんて絶対におかしい。
「自分はしたのに?」
「押されて勝手に出ちゃっただけです」
しばらく動きを止めていたのにまた緩く中を擦り始め、再開された刺激を求めて腰が浮いてしまった。あんなことをさせられたし、非人道的な行為をされようとしているというのに私の中は未だかつてないくらい蠢いている。子宮が疼くという感覚はこういうことだったのかと知った。あなたの印を刻んでくれと身体が求めている。七海をもっと欲しいと思ってしまう。このまま彼にこれ以上を望んでいいのだろうか。
「お願いします。絶対に気持ちいいと思うんです。あなたのことを軽んじたり従わせようという気持ちはありません。純粋に快楽を求めるためです」
「うぅッ、もう、おかしなこと言わないでっ」
七海の信じられない願望を耳にして、宙に浮いたような感覚に襲われる。もうどう思われてもいいと開き直ってはいたが、度を過ぎた行為の依頼に身の毛がよだつ。それでも七海の囁きを聞かされながら奥をやわやわと押されると頭が真っ白になってしまいそうだった。そんな私の姿を見て七海は嬉しそうに微笑んでいる。私が中をひくつかせ身体を震わせると「上手だ」「可愛い」と言って頬を摺り寄せた。それでも愛を確かめるための言葉は言ってくれないのがどうしても悲しくて、胸の真ん中が締め付けられる。身体は熱くてとけてしまいそうなのに、胸の奥の方は少しずつ冷えていく。
「こんなにガチガチに勃起してたら出ないかもしれない。一回抜いた方がいいでしょう」
「話聞いて! いいって言ってないです!」
「いいでしょう、お願いですから」
背中に唇を這わせながら七海が腰を引くと、硬さを保ったままの陰茎がずるりと抜けていった。七海はどかっと勢いよく空っぽのバスタブの縁に腰掛けると、静かに呼吸を整え始めた。私もその隣に座ってみる。
「少し落ち着いてから入れないと、尿は出ませんね」
「なんで……。おかしいです、こんなこと」
七海の身体が離れたら一気に冷えた。ぶるりと震えて思わず自分の肩を抱くと、それに気づいた七海がそっと身体をくっ付けてくれた。私とは違って彼は熱かった。肌が触れ合うと心地いい。うっとりしながら彼の唇を求めると一瞬触れただけですぐに離れていってしまった。
「あんまり可愛くされると治まらないので大人しくしててください」
「ダメなのに……」
「大丈夫です。寒かったらシャワーでも浴びますか」
「どうせまた汚れるからいいです。七海さんって救いようの無い変態だったんですね……」
私が答えると七海は一瞬目を見開いてから、にこりと笑って言う。
「それはいいということですね」
「もう二度としないから。人生で今回一回限りです」
「あなたの初めてを貰えると思うと、せっかく落ち着いてきたのに期待でまた……」
私を抱きしめて頬ずりしながら嬉しそうにしている。人の身体を弄んで、私が流されて七海の思い通りになっているのが楽しいのだろう。
「これくらいならいけると思います。後ろからするとあなたの顔が見えないので、そのままバスタブに腰掛けていてください」
七海がそっと私の身体を押した。すると背中に冷たいものが触れて一気に皮膚が粟立つ。
「背中がタイルに当たって冷たいです」
「ちょっとだけ我慢してください。さあ、足を開いてよく見せて」
止める気は全くないらしく、私の大腿に浮いた鳥肌をなぞるとそのままM字に開脚させてもう一度身体を少し後ろへ押した。ひやりとタイルに触れる感覚にまた驚いて身をすくめてしまう。七海は私の穴を観察するように眺めた後、中指を埋めた。
「まだ中はどろどろに熱い」
すぐに指を抜き去り、少しだけ落ち着いたという彼の陰茎を当てがった。やや硬さは失われたものの十分に勃起している。性器同士が合わさっているところを客観的に見てしまうと、とても滑稽だった。私の穴は肉のヒダが並びどろどろと粘液を垂らしてとてもグロテスクに見える。陰毛に白く粘度の高い分泌物が絡みついていた。私から出たものか七海から出たものかはわからない。七海のものの先端は薄いピンク色で竿に血管を浮き立たせてひくついていたが、私の潤んだ穴よりかは幾分きれいに見える。いつも薄暗いところか後ろからだったので、まじまじと挿入されるところを眺めるのは初めてだった。これをあの穴に入れているんだと思うとなんだかとてもおかしな事をしている気がする。
何故こんな事を? 何のために?
くちくちと粘液同士を絡める音が耳に入りはっとした。七海のごつごつした男性らしい手が桃色の陰茎を支えて私の膣の入口を擦っている。思わずその光景を凝視していると七海が私の耳を舐めながら「目を離さないで」と吐息交じりに囁く。それだけで中がひくつくのがわかる。理由付けはいいからとにかくそれを埋めて欲しいと思った。だって中に入れるとすごく気持ちがいい。それから擦って突いて捏ね回して、何か良からぬことを考えつく前に理性を吹っ飛ばして欲しい。私が余程物欲しそうな顔をしていたのか、七海は私の顔を見るや否や息を漏らして笑い、「すぐに入れてあげますから」と呟いた。ぐっと奥が収縮するのがわかる。ずるずると入ってきたそれはいつもより少し柔らかい気がする。
「……あぁ、あたたかい……あなたは、じっとしてて。そのまま動かずに……」
亀頭が入り竿も埋まっていくと七海は深呼吸を数回した。私の膣にみっしりと嵌まり込んでいる様子から目が逸らせない。改めて見てしまうと、なんて事をしようとしているんだと自覚する。このまま、七海が私の中に、尿を出そうとしているなんて。
「ふぅ、この状態から勃起しないというのが難しい。なかなか尿意をもよおしません……」
「実況はやめてください」
額に汗を滲ませた七海が快感に耐えるように唸りながら言う。射精と排尿のメカニズムはわからないが、同時には起こりえないものらしい。しばらく私の中に埋めたままじっとして深呼吸をした。その間も私の反応を伺うようにちらちらと様子を見てくるので恥ずかしさのあまり腕で顔を覆って身を捩る。
「ちょっと、動くなッ……あ、あ、出そう、でる……」
こみ上げてくるものがあったようで、七海は私の肩をタイルに押し付けて固定した。次の瞬間、生温かいものが私の中に流れ込んでくる感覚がして思わず目を閉じる。
「あっ、あっ、こ、これなにっ……溢れちゃいます」
「お、ぉ、でた……おぉー……これ、は、はぁー……」
七海は繋がっているところと私の顔を交互に見て、せりあがる尿意に身を任せ惚けた表情をして腰を震わせた。とてつもない快感らしい。こんな彼の表情は初めてだった。口をぽかんと開けぶるぶると全身を痙攣させている。わずかに震える手で私の頬を撫でると舌を突き出して私の顔に近づき、犬のように唇をぺろぺろと舐めた。半開きの口から洩れる喘ぎ声があまりにいつもの七海らしく無くて、とんでもないことをされているのだと感じる。膣と陰茎は隙間なく埋まっているはずなのに、どこからともなく七海の黄色い尿がジョロジョロと漏れ出てきてバスタブに流れていく。腹の中が膨らんだように感じ、内臓がせり上がっていく感覚に襲われる。
「も、やめて、漏れちゃうっ」
「途中で、止まら、ない、んですよ、わかるでしょう……」
先程出し切ったはずなのに、今流れているものが自分の尿なのか七海の尿なのかわからない。まるで自分が失禁しているかのようにとめどなく出てくるのだ。こんな感覚は初めてだった。
「わかんな、いっ! もう終わって、お願いっ」
「あと、もう、すこし、おぉ……、あなた、なんといって、いいのか、とても、かわいい……はあー……」
快楽を貪るように排尿を続け、ゆるゆると抜き差しをしながら七海が言う。先程まで寒かったはずなのに途端に身体が火照って熱を逃がしたくてたまらない。七海は唇を舐めたり噛んだりしながら息も絶え絶えであるのに、私を逃すまいと壁に押しやった。
「はァ、どんな、感じですか」
「うぅ……押されるかんじ……変ですこんなの」
顔を背けると耳に舌が這わされる。元より逃げ場などない。流れ出る尿の勢いが大人しくなってきたかと思うと、七海がふうふうと息を荒げて下腹部に力を込めた。最後の一滴まで絞り出したいらしい。それから少し動きが緩慢になり、私に身体をあずけて脱力した。
「あーー……。もう、さすがに、でません……抜きます」
入った時より硬さが幾分増した陰茎が引き抜かれると、緩んでしまった穴から尿がだらだらと流れ出た。それを見ながら七海は陰核を圧迫して私の反応を楽しんでいる。
「まだ入ってるんじゃないですか。ちょっと出してみて」
「こ、こうですか」
下腹部に思いきり力を入れて穴の奥を締め付けてみる。こんなことで出てくるのかはわからないが、尻の穴に力を入れると膣口から中に残った尿がじわりと出てきた。
「ああ、じわじわ出てきましたね。見えますか」
陰唇を開いて私に見せ付けながら頬に口づけを何度も落とす。
「ふふ、やってしまった。あなたに、とんでもないことを」
それから流れ出た自らの尿を手のひらにつけると、私の下腹部に塗り込むように撫でた。一体どういう感情なのだろう。七海の考えていることがわからない。
「気持ち悪い。大嫌い。一生恨みます」
バスタブの蛇口を捻って浴槽にわずかに溜まった尿を洗い流す。七海の手が緩んだのでそのまま滑り落ちるようにバスタブに入った。栓をしていないので湯はざあざあと流れていくが、手ですくって下半身を清めるように洗い流した。そんな私を見て少し気に入らないという顔をして無理矢理立ち上がらせると、頬を掴んで不敵な笑みを浮かべる。
「生まれ変わっても私の事を忘れないでいてください」
忘れられるわけがない。生まれ変わっても七海を好きになる。七海はどうなのか聞きたい。私の事をどう思っているのかと。私にとんでもないことをしてしまった理由を教えて欲しい。こんなことをしてまで残りたかったのだろうか。それとももう、本当に嫌いになって欲しいのかもしれない。そんなことできるはずがないのに。何もしなくても七海のことだけが忘れられない。ずっと私の中に残り続けて消えることは無い。このままここで叫んでしまえばどんなに楽だろう。流れる涙を我慢しなければ私たちは変われるのかもしれない。七海も悲しそうに見えるが本当のところはわからない。だって今までもこれからも、私たちは気持ちを言葉にすることはないのだから。
「背徳感と征服感が凄まじく、頭が空っぽになりそうでした。ありがとうございます。想像通り気持ちよかった」
立ち尽くしたままの私を再びバスタブに座らせながら七海は感想を述べた。そんなことが聞きたいわけではないが、気持ちを教えてくれとは言えなかった。
「最低最悪の変態だって言いふらしてやる」
こうやって睨みつけて恨み事を言うことしかできない。
「きっと誰も信じませんよ。それより中を綺麗に洗ってあげましょう」
膝をついて陰部を覗き込みながら言った。
「トイレで自分でします」
「奥の方をしっかり洗わないと。病気になったらどうするんですか」
手を払いのけて拒否するともっともらしい理由を述べはじめる。立ち上がってバスタブから出ようとすると、そのまま後ろから羽交い絞めにされ尻の肉を開くように完全に硬さを取り戻した陰茎を擦り付けた。
「七海さんのせいだから、許さない。離してください」
「凄んでも、さっきの顔を知ってるから全然怖くない。蕩けてましたね。あなたも気持ちよかったですか」
「やめて。最悪の気分です」
「もう少し腰を上げて」
ぬるぬると膣口を擦られていると、いとも簡単に中へ入っていってしまった。そのまま腰を打ち付け始めバスルームに肌と肌がぶつかり合う音が響き渡る。七海にされると気持ちがいい。何をされたって、どこでやったって、彼に触れられるだけですぐに身体は降伏してしまうのだ。中途半端に昂った気持ちがまたぶり返しそのまま受け入れてしまいそうになるが、されるがままになっているのが癪なので身体を捻って文句を言ってみる。
「ちょっと、洗うんじゃなかったんですか!」
「そうでした。では続きはシャワールームでしましょう」
濡れた身体がどんどん冷えてくる。シャワーへ行くと言ってからもしばらく私の中をねちっこく捏ねていた。口に突っ込まれた指に噛み付いて抗議すると不服そうに陰茎がずるりと引き抜かれ、シャワーへと連れていかれる。向かい合う二人の頭の上から熱い湯が降ってきて、汚れた身体を流した。七海は私の身体を壁に追いやると片足を抱え上げ、立ったまま挿入した。
「あ、も、だめですっ。なか、よごれてるから……」
「もう限界なんです。後で必ず綺麗に洗いますから、このまま、いいでしょう」
先ほどと違った角度で前の方が擦られ、大きな声を出してしまいそうで咄嗟に口を押える。それを見た七海は私の手を払い、首に手を回すように言うが体格差からうまく立つことが出来ない。しばらく腰の角度を変えてみたり足を更に上げてみたりとモタモタしたがどうにもならず息を荒げていると、焦れた七海が腰をぐっと落としてもう片方の足も持ち上げて中に入ったまま抱きかかえられてしまった。自分の体重で体内の臓器が押され快感の波が押し寄せる。落ちてしまいそうになり首に手を回してしがみ付くと、七海が嬉しそうに吐息を漏らす。
「ぅあぁっ……イ、くッ、きちゃう、イイのがっ……ま、またぁ……」
「どうぞッ、くッ……あまり締め付けないで、くださいね、すぐ出そうなのでっ」
ガラス張りのシャワールームの中で七海に抱え上げられ責められている。腰を揺らす度に奥まで刺さって子宮が押し潰された。腰の動きに同調して鷲掴みにされた尻をぐいぐいと押さえつけてくる。
「やッイッ…ッッ……あっ…きもちぃっ…ンッ……」
「ちょっとッ、我慢出来ないっ……でるッ」
私が気をやっていると七海の焦った声が聞こえ、ハッとした時には床に降ろされていた。膝をついた七海は荒い呼吸をしながら私の目の前で陰茎を扱き胸の辺りにびたびたと精液を飛ばしていた。先ほどより量は少ないが粘度の高い白濁した液体が前胸部を汚している。
「うッ……ハァっ、あぶなかった……」
七海は肩で大きく呼吸を整えながらごしごしと竿を擦り上げ、尿道の中に残ったものを私の頬に付けた。ぴくりと震えるそれを舐めようと口を開くが、七海は「そういうことはやめなさい」と言ってキスを落とした。以前車の中では頭を無理矢理掴んで舐めろと言ったのに今日は一度も口でさせてくれない。私だって彼に奉仕したいと言う気持ちがあるのに。
「中に出したいんじゃなかったんですか」
「正直な欲望はそうですが、あなたが怖がることをしたくないというのとは、また別です」
「……そう」
大切にされていると思わせるような言葉に胸がときめいてしまう。自然と頬が緩むが、七海に喜んでいる顔を見られないように、顔を背けて流れ落ちるシャワーの水を見ていた。やがて私の胸についていた七海の体液は排水溝へと吸い込まれていった。ぼんやりその様子を眺めていると七海の指が私の中に入って中を掻き出すように何度も出入りした。シャワーヘッドを私の股間に持ってきてシャワーをあてながら抜き差しを繰り返す。少し困ったように眉を顰め、同意を求めるかのように私に問いかける。
「これで綺麗になるでしょうか」
「知りません。もういいです。後でトイレに行くから」
七海念願のバブルバスに湯を入れ替えて、私たちはのんびりとバスタイムを楽しんだ。湯に泡が浮かんでいるだけなのに、七海は機嫌よさそうに私の身体を撫でていた。私は彼の胸に背中を預け、肩まで湯に浸かりじっとしてその手の感触を楽しんだ。
「これってイチャイチャしてることになってますか」
「はい」
「他に何かしたいことありますか」
「もちろん」
「何がしたいのか教えてください」
「後でゆっくり教えます」
七海は少し疲れたのかバスタブに腕をかけてぼうっと天井を見つめた。バスルームにも大きな窓があり、外には一面の夜景が広がっている。これを美しいと思うのか、寂しいと思うのかはその人の内面が関わってくると思う。彼のことが知りたい。七海は夜景をどう思うのだろう。道端に咲く野草を摘むのだろうか。都会の夜空に星を見つけて喜ぶか。朝陽を見て心が弾むのか、焦燥するのか。
「……すごい夜景ですね。みんなまだ起きてるのかな」
「どうでしょう」
「夜景って綺麗ですけど無機物だから、ちょっと切ない気持ちになりませんか」
「わかります」
「新緑とか、川のせせらぎとか、静かな湖とか、そういうものの方が美しい感じがします」
「確かに」
「……全然私の話聞いてない」
七海は少し間をおいて答えた。
「次は都心のホテルではなく、山中にある川の側の旅館にしようと考えていました」
そうやって狡い口振りで、私のことを留めようとする。それなのに貴方のことは何一つ教えてくれない。
私と一緒に行きたいと、私の事が好きだと言ってよ!
「七海さんの恋人になる人は幸せですね」
「まるで一緒に行くのは自分ではないとでもいうような口ぶりだ」
「明日の朝、うちまで送ってください」
「当然です」
「一晩だけの約束、忘れてないですよね」
「そんなもの忘れたい」
「駄目ですよ。約束は絶対だって七海さんが言ったんですから」
やっぱりこれはただの遊びだ。二人で肌に触れあっても、お互いの性器を繋げても、結びつくのは身体だけでその先へは進めない。侵入を拒まれている。だから私も入らせない。七海の腕が私に巻き付いてまた身体を拘束された。次に彼はどこかにキスをして私のなんでもない所を褒めるだろう。それから私の唇にも口づけて、話を逸らすように「お腹が空いた」とか「そろそろ上がろう」だとか言うはずだ。そうしたら私が流されて、これ以上何も言わないことを七海は知っている。
「あなたの首のここに、小さなほくろがある。知ってますか。可愛らしい」
ねえ!
「こっちを向いて。キスしたい」
ほら!
「風呂から出たら何か食べましょう」
七海さん!
私、知ってるんですよ。貴方がそうやって誤魔化して、答えを教えてくれないこと。
七海は私の予想通りだった。何も知らないふりをして口付けを受け、バスタブから出てシャワーを浴びたあと身体を拭かせてやる。パイル地のバスローブは私には少し大きかったが、七海はまるで採寸でもされていたかのようにぴったりだった。幸せそうな顔をしてバスローブごと私を抱きしめたが、私の心の底では何かがすべり落ちる音がした。やはりこのままでは、私たちに未来はないと思わざるを得ない。
私も七海も羞恥を捨て、虚言や詮索を止めなくては。
でもそれは、今の私たちでは不可能だろう。
あの日からあまりにも時間が経ちすぎた。