姫金魚草 ―幻想―

第8話

 覆いかぶさる七海の身体がゆっくりと離れていったかと思うと、私の背中を抱いて後ろへ倒れていき彼の上に乗るように誘導された。七海に跨って彼を見下ろすと、眉間にしわを寄せ目を瞑って何かに耐えているようだ。先ほどとはまた違った場所に先端が当たり、数回腰を動かしただけで達してしまう。波が引くのを待っていたいのに七海が下から突き上げてくるので姿勢を保つことができず、彼の胸に倒れこんだ。そのまま背中と臀部を拘束され、私たちの身体は隙間なく密着した。弾力のある亀頭が子宮口を押し潰すと頭の中で閃光が走り、もっとこの快感を得たくてたまらず、ぐいぐいと腰を押し付けてしまう。性器はぐちぐちと音を立てながら粘度のある液体を結合部から垂れ流した。中が痙攣しているのが自分でもわかる。

「一回出さないと、もたないっ。じっとしてくださいッ」
「だ、だって。あ、あ、また、くるっ。これ、すきぃ、う、ッぐ……」

 今まで感じたことのない強い快感が押し寄せ、いいところを擦って欲しくて腰を揺らしながら催促すると七海は苦しそうに喘いだ。

「ッ、も、出る、ぐ……ッ。もう、出そうです、でる、でる、よすぎ、です、あなたの中っ」

 力任せに私の身体を閉じ込めて、最奥をえぐられると暴力的な快楽が脊髄を通り抜け突き上げ続けて欲しいと願ってしまう。このまま中へ出されてしまっても仕方がない。こんなに気持ちがいいのだから。人間はこの感覚に立ち向かえないよう遺伝子に組み込まれている。いや違う。何を馬鹿な事を考えているのだ。このまま許すわけにはいかない。

「嫌、ぬ、ぬいてくださいっ、中はだめッ」

 七海は腕の力をさらに強め、逃すまいと抱き込める。そのまま腰を押し付けられ続けまた気をやってしまった。どろどろの思考でもこのまま射精されるとどうなるかはわかっているのに、本能に抗うのは不可能だ。どうしても止めることができない。

「いいでしょッ、このままなかに……あぁ、本当に、もう、出そうッ、でる、だしますよッ」

 汗をかきながら必死に訴える切羽詰まった七海の声が脳内に響いて、いいですよ、と許可してしまいそうだ。もういいだろう、このままでも。自然妊娠の確率は高くても三割未満。大きくずれた七海と私の関係性を考えると、そんなに高い確率でもない。

 いいですよ、七海さん。
 そのまま私の一番奥に吐き出して。
 私はあなただけのものですから。

「だめですッ、嫌だ、やめて、七海さんッ」

 それでも口から出たのは拒否の言葉だった。理性が勝ったのだろうか。それとも本能的に拒んだのだろうか。七海は苦悩の表情を浮かべている。気持ちいいことをしているはずなのに、苦痛に耐えているかのように眉根を寄せていた。それでも奥を圧迫することを止めずぐりぐりと腰を押し付けて私を責め続ける。いよいよ本当に中に精液がかけられてしまうのではと思うと、いけないことだとわかっているのに再び抗えない快感が迫ってきた。もう流されてしまってもいいと受け入れる自分と、これ以上敵の侵入を許すなと警告する自分がどちらも正論を振りかざして言い争っている。

「ッは、ぁ、くそっ、」

 七海は悪態をつきながら私の身体に巻き付けた手を放しぎりぎりのところで引き抜いた。彼の上に乗ったたまま動けない私を仰向けにベッドへ押し倒し、私の臍上目掛けて精液を吐きだしている。七海の男性的な手がいきり立ちびくびくと震える陰茎を扱いて吐精する様子を興奮冷めやらぬ気持ちで見つめた。昂った気持ちは落ち着かず、まだ欲しいと、もう一度突っ込んでくれと望んでしまう。胸まで飛んできた体液を指で掬って口元へ運ぶと淫猥な味がした。七海は肩で息をしながら私の姿を注視している。頭からつま先までじっくり視線を這わせ、何か言いたげにしているが口は開かない。時折びくりと震える陰茎の先端から尿道に残っていた精液が押し出され流れ落ちそうだ。なんとか力を振り絞って上半身を起こし辺りを見回すと、察した七海がティッシュを数枚とって私の身体を拭くいた。

「頭がどうにかなりそうなくらい、気持ちいい。全然治まらない」

 七海は下を向いて独り言のようにつぶやき、私の両足を開いて陰部を注意深く観察している。肩を上下させはあはあと呼吸を荒らげたままで、熱を持った彼の息がまだひくつく私の下半身にかかってこの次を期待してしまう。

「はは、ちょっとかかっちゃいましたね、ここに」

 七海は陰毛に乗った精液を掬い陰核に擦り付けて指で潰すように押さえつけると、予想していなかった刺激に悦びまた腰を突き出してしまった。

「ひ、ぃッ、そんな、シャワーに行かせてくださいっ」
「私は別に構いませんが」

 七海はじわじわと私の上に移動してきて再びのしかかる。

「重っ。止まってっ。一回、休憩させて」
「離れがたい。一緒に行きましょう。歩けますか」

 七海の身体が離れていくと冷たい室温が火照った肌を冷ました。私は首を縦に振って身体を起こし、ベッドから足を降ろしてひんやりした床を踏みしめる。七海に手を取られ立ち上がると、そのまま彼の胸の中に閉じ込められた。力任せにぎゅうぎゅう抱きしめられ息ができない。

「うぐゥ、苦しいです、七海さん」
「今日だけだから思う存分堪能させてください。あなたの事を全部覚えておきたいんです」

 私はそうですかと呟くと七海の胸元で顔を隠した。私のことを覚えておいてくれるんだと思うと嬉しくてたまらなかった。あのジャズも、普段と違う匂いも、ホテルの温度も、七海の温もりも忘れられるわけがない。初めて恋をしたときのように胸が高鳴る。このまま愛を告白してしまおうか。そうしたらもっと七海の記憶に色濃く残れるに違いない。

「帰したくない。あなたに執着している男が誰だったか、絶対に忘れないで」
「わかってます。まだ朝にもなってないのに」

 七海は腕の力を緩めると、私をベッドに再び座らせた。シャワーに行くのではなかったのかと見上げると、「お湯を溜めてきます」と言って、何か良い事でも思いついたのか嬉しそうにバスルームへと向かう。

「シャワーでいいです」

 私が不満そうな声を出すと、七海は振り返って途端にむすっとした表情になる。それから拗ねたように下唇を突き出すと、くぐもった声でぶつくさ文句を言った。

「一緒に湯船に入ってイチャイチャしたいという願望を叶えてください」
「イチャイチャとか言うんですね、七海さんって。変なの」
「健全な男子として当然の思考なので変だとは心外ですね。あとは一緒に食事もしたいし、眠っているときは抱き枕になってもらいます。起きたらおはようのキスもします。セックスも終わりじゃないですから。落ち着いたらまたしますのでよろしくお願いします」

 やけに早口で捲し立ててバスルームへと去っていった。足取りは軽く、スキップでもしているかのようだ。背中から隠しきれない愉悦を感じる。七海もあんな風に嬉しそうにすることもあるのだと妙に感心した。しばらくして戻って来た七海は腰にタオルを巻いており、自分だけ全裸を脱して人間らしさを取り戻していた。私はまだ裸のままだというのに。

「冷えるので布団に入っていて。お湯がいっぱいになるまで少しかかります。その間さっそく抱き枕になってもらおうと思います」
「いちいち宣言しないで、もう好きにしてください」

 私が諦めて布団に転がると、腰のタオルをそこらに投げ捨てて七海もベッドへ入ってきた。身体が引っ張られて背中が七海の腹にくっつくと彼の心音が聞こえてくる。どくん、どくんと全身に血液を送り出す確かな鼓動。先ほどまでとは違いゆっくりとした拍動だった。

「温かい。いい匂い。幸せだ。これだけで満たされる。不能になったら責任とってください」
「七海さん、全然不能になってない。ずっと勃ってます」
「よかった。充実感が凄くてもうしなくていいかとさえ思っていたんですが、まだいけそうですね」

 朗らかな声が頭の上から聞こえてくる。優しい手つきで肌を撫で、届く範囲のすべてにキスをしている。顔は見えないがきっと笑っているのだろう。七海の足が少し冷えた私のつま先を探り当て、温もりを分けてくれた。私の首筋に鼻を埋めてすうすうと平静な呼吸を繰り返している。置いておく場所などないのに喜びの感情が湧き上がり戸惑った。これじゃあまるで、本当に恋人同士のようだ。七海と付き合う人は幸せだろう。こんなに愛してもらえるのだから。しばらく私を抱きしめたまま何かぶつぶつ言っていたが、そのうち硬く起立したところを尻に擦り付け始める。私も再び腹の底が疼き、尻を突き出して更なる刺激を求めた。

「ちょっとだけしたいと言ったら怒りますか」
「ん、もぅ……結局、するん、ですねッ…ッああ」

 七海はやはり耐えられなかったと吐息と共に漏らし、後ろから抱きかかえたまま尻を掴んで片手で肉を開き、先端で探りながらじわじわと挿入した。先ほどと変わらぬ大きさと熱さが再び中を擦り始める。体位のせいか動きの激しさはなく、ねちねちと膣壁を引っ搔きながら少しずつ奥へと進んできた。

「はァ、温かい。さっきより中の、奥の方がフワフワしてます。最高だ」
「んン……いちいちッ、解説しないで」

 七海の手が下の方へと滑ってくる。下腹をさわさわと撫でたと思うと、何かを探し当てるかのようにぐっと指先を押し込んだ。ふいに強く下腹部が圧迫され尿意をもよおすと同時に、ひしゃげた膀胱がその奥に存在する子宮を押し潰す。

「ふッ……ッァあアア、やだッ! 漏れちゃうッ」
「それは是非見てみたいですね」
「ん、汚れるからッ、やめてやめて、うッ、もう止まってッ」
「じゃあ風呂で見せてください」
「もッ……やめて、わけ、わかんなく、なるっ」

 七海は執拗に手を押し込めて、私の腹の奥にあるものを触ろうと体外から臓器を弄ぶ。私の中の奥の方に七海の存在を感じる。七海の身体と、手と、性器に挟まれ腰が抜けそうなほどの興奮を感じていた。

「いいと言うまで止めない」
「っぁ、わかった、から、んン……止まってッ」

 私が返事をすると七海の手の動きが止まった。フフッと小さく声を漏らして笑っている。

「やめました。後でどうなるのか見せてもらいますから」
「っ!? 最ッ低です……」

 今更どう思われてもいいのだと七海は言って、約束通り下腹部への刺激をやめた。その代わり陰核と乳頭をぬるぬると指でこね回しながら、ゆっくりと腰を動かし始める。何度も気をやりそうになって声を出すと、わざと七海は手を緩めるので達する寸前に止められ、悶々としてしまう。もっと激しくしてほしいのに、もどかしい動きで刺激が物足りず横向きになったまま必死に尻を七海に押し付けた。いよいよ耐え切れずに気持ちいいところに当たるよう角度を調整していたら、突然うつ伏せにされてその上に七海が体重をかけてのしかかってきた。

「ング、ぐるじィ……おもい、」
「お腹の下にこれを」

 七海は手を伸ばして枕をとると、私の腹の下に敷いた。自然と臀部が少し浮いた形になり、一番弱いところに先端が当たる。その瞬間に絶頂が訪れ頭が真っ白になった。あまりの快感に叫んでしまい、七海は驚いてぴたりと動きを止め息をのむ。唸りながら達し続けていると次第に全身がぴくぴくと痙攣し、その刺激の強さを表した。七海は私が落ち着くまでじっとしていたが、震えが治まるとゆっくりとした動きを再開する。入り口付近をねっとり撫でたかと思うと一気に奥へ突き刺して子宮口を押し潰す。その舐るような動きに下品な喘ぎ声を上げてしまい、恥ずかしくて枕に顔を擦り付けて悶えた。

「上手にいけましたね。中がぬるぬるしてきました。女性が羨ましい。足を真っ直ぐ伸ばしてください。そうするともっと気持ちいいですよ」

 そう言うと七海は伸ばされた私の大腿を挟み込み、後ろから激しい律動を始める。突かれるたびに尻が押され不格好に潰れた。時折うなじや肩を噛んだり舐めたりされ、耳元で聞こえる七海の息遣いもがトリガーとなり背中の神経にそって電気刺激が走る。容赦なくかけられる重みで息がしづらいが密着感が心地よい。そして彼の言う通り、枕でついた角度と足を閉じたことで中が締まって竿が膣壁をごりごりと擦り、とんでもなく気持ちがよくて何度も気をやってしまう。こんな荒々しい感覚を得るのは初めてだった。

「ちょっと待って」

 声も出せないくらいの快楽に気をやっていると、突然七海の動きが止まり身体を起こす。

「んッ、え? どうしたんですか」
「もう出そうなんです」
「アッ、はい、どうぞ」
「中に出しても……?」
「ダメに決まってるでしょ! 調子に乗らないでください。本当に怒りますよっ」

 仕方ないと不服そうな声を出し、動きが再開された。私のことはお構いなしに射精するためだけのピストンをしている。そんな自分勝手な動きにさえ感じてしまう。私の七海への感情は、もう取り返しがつかないところまで来ているらしい。

「ぅうう、……っは、出るッ……ちゃんと、外にッ出しますから、」
「い、っん、ウン、わかった、から……っ」

 無茶苦茶に突いていた動きを少し緩めたと思うと、枕を抱いている私の手を引き剥がし、自分で尻を左右に開くよう誘導される。肛門も結合部も丸見えになっているだろう。七海がごくりと生唾を飲む音が聞こえ、それからまた激しく腰を打ち付け始める。

「はーッ、ほんとは、一番奥に押し付けてッ、ぶっかけてやりたいッ」
「あ……ッ、そういうこと、言わないで、欲し、く、なっちゃうからぁ……だめ、ですっ」
「ほんとに、付き合ってたら、いいんですか」
「ん、ぅうっ……そうじゃないのにっ、もう、一回終わってっ」

 七海は動物のような低い唸り声をあげて私の中を埋めていたものを引き抜くと、臀部に生温かい汁をぱたぱたとかけた。ハーハーと息を整える声が聞こえる。それからもう数滴どろりとした液体を私の腰に落として滑った先端をぐりぐりとなすりつけた後、脱力して布団に倒れこみ真剣な表情で私を見つめてこう言った。

「二回目なのに信じられないくらい出ました。こういうプレイもいいですね。脳に刻み付けておきます」
「……最低。お風呂でイチャイチャするんでしょ、早く行きましょう」

 これで最後だと、最早開き直っているのだろう。先ほど同様ティッシュで私の身体に付着した精液をぬぐい取ると、あれだけ激しかったと言うのに七海は勢いよく身体を起こしベッドサイドに腰掛けてこちらを見た。その顔は妙にすっきりしている。寝ころんだままの私の髪を梳いてお願いがあると改まって言いだした。

「頭と身体を洗わせてください。あなたも私を洗って欲しい。バブルバスが良かったんですが、残念ながらバスソルトでした。まあいいでしょう。お湯はぬるめにしてますから、湯船でしばらく浸りながら愛を囁いてもいいですか」

 嬉々として言うその姿が可笑しいし、やりたい放題な七海に腹が立つし、わかりかけていた彼に抱く感情の正体がわからなくなった。

「入る前から細かい指定しないで!」
「ああ、すみません。嬉しさのあまり抑制がきかない」

 私はのそのそとベッドから這い出てじわりと身体を起こす。頭がくらくらする。

「七海さん。連れて行ってください。お姫様抱っこで」
「あなたからのお願いが聞けて嬉しい」

 七海は軽々私を持ち上げると軽やかな足取りでバスルームへと向かう。

 どうやら私も調子に乗っているようだ。まだ明日の朝まで時間はある。それまでは貴方の恋人でいさせて。