雲ひとつない晴れた空が気持ちよくて、大きく伸びをした。胸いっぱいに息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。都会の公園で自然の空気が美味しいとは素直に言えないけれど、新緑の芽吹きを感じられる爽やかな匂いがしている。ここのところあまり平和とは言えないこの街でも、平穏を感じるときはある。今日が、そんな日だった。
「ええ天気やなあ」
「お弁当でも持ってきたらよかった、とか思っちゃうくらいにね」
隣に腰を下ろす男も私と同じようで、ぼけっと煙草をくゆらせながらお天道様を見上げている。気だるそうに返事をして、ふう、っと紫煙をくゆらせている様子からは、心底ゆったりしているようには見えるけれど、本当のところはよくわからなかった。この男は、いつも本音がよく見えない。長い付き合いなのに腹の中が見えないから、少し寂しいと思うときがある。
「たまにはこういう日もいるかァ」
「そうそう。悪漢も今日は休みだよ、きっと」
「悪漢て。自分いくつなん」
「えー。登吾にだけは言われたくない」
老犬を連れた老夫婦が私たちを見て微笑ましそうに会釈する。全然知らない人だけど、ぺこりと頭を下げてみる。ジョギングしている青年が散歩している女性のハンカチを拾ってロマンスが生まれそうな現場を目撃したり、いかにも極道風なゴミ拾い集団を冷ややかな目で見たりしながら、束の間の平和を謳歌する。戦争が終わって一段落したように思える日々も、ふとした瞬間にフラッシュバックする戦場の光景に、すぐさまかき消されてしまう。液体が零れる音に流れる血を連想し、重い積荷を降ろす音からは仲間が倒れる光景が思い出される。終戦して数年。もうあんな事態は二度とごめんだ。
子どもの吹いたシャボン玉が風に乗ってやってきて、登吾の目の前でパチンと割れた。謝りにきた子に「ええよ」と言って、穏やかに微笑む。少年の投げたボールがこちらに向かって飛んできたと思ったら、登吾が難なくキャッチして返球する。会釈する少年に向かって「じょうずやね」と笑う。一連の流れがあまりにも日曜日のお父さんみたいで、堪えていたのに吹き出して笑ってしまった。本人に告げると、「あんな大きな子おらんわ」とか言いながら新しい煙草に火をつけた。くだらないことを言う私に呆れたような表情をして、ふうーっ、と煙を吐き出す。ふわふわ、もくもく。青空に消えていく。煙草の匂いはあまり得意じゃないけれど、登吾にはあまりにも似合うから、咎められない。
この公園で起こることのすべてが平和の象徴みたいだ。このままここで、何も起こらないことが保証されているみたい。まさに、平和そのものだった。ほんの数分前までは。
***
「え、ちょ、なに⁉」
「ええから。ええから」
「やッ、ちから、強ッ。どこいくの⁉」
「すぐそこ」
着けたばかりの煙草を携帯灰皿にぎゅうぎゅうと突っ込んだと思ったら、「よっしゃ!」と言った登吾がヒョイと立ち上がった。それから私の手を急に引っ張って、立たせようとした。痛いなあ、と文句を言うと、したり顔で見下ろしてくる。どこへ行くとも何をするとも言わず、されるがままに連れられて公園を出た。普段は割とひょうきんな男ではあるが、正直、何を考えているのかわからないことも多い。自分では一応柴登吾の恋人だと認識しているものの、彼は気持ちを口にしないから、正解かどうかは知らない。大人の恋愛は告白なんて無いのが一般的なのだとは思う。ずっと一緒に居てくれるということは、私が彼と存在することを許されていると理解している。若干ややこしい男ではあるが、それなりに上手くやっていたはずだった。ただ、今日は本当に何が何やらわからなかった。若干不穏な態度から、すわ敵襲かと思いきや、繁華街をずんずん進んでいくだけだ。
飲み屋やら喫茶店やらが立ち並ぶ飲食店街を抜けて少し歩いたら、薄暗く狭い路地を入る。先ほどまでの美しい青空はどこへやら。排気ダクトや室外機だらけの細道を更に行き、怪しげなビニールのれんをくぐる。中に入れば更に暗く、コイントレーしか通らない閉ざされたフロントと、各部屋の内装と部屋番号が書かれたパネルが並んでいた。
「えー、急になんで……?」
「ええからええから」
「さっきからそればっかり!」
「俺んちまでちょっと距離あるし」
登吾が一切の迷いなく一番上のボタンを押し、すぐにエレベーターに押し込まれた。二人しか乗ることのできない狭い箱の扉が閉まると、わざとらしく腰に手を回してくる。するすると服の下に手を入れて、脇腹の肉に指を吸い付かせるように当てる、その手つきが既にいやらしい。こんなふうにされたら、嫌でもその気になってくる。急に、だとか、こんなところで、だとか、そういうのは全部、刺激でしかないことをわかってやっているんだろう。
「いきなりなんで――」
「あかん?」
「いや、ダメなわけじゃないけど」
「ほな、ええやん」
轟々と唸りながら稼働するエレベーターに一抹の不安を覚える。異世界にでも飛ばされるのではと、ふざけてやろうかと横目で登吾を見やる。当然のようにバッチリ視線が交差して、わかっていたのにドギマギする。優しく目を細めて私を見ているなんて知りたくなかった。彼に愛されていることを今ここで再確認してしまったら、なんだか止まれなくなりそうだ。
チン、と古臭い音を立ててレトロなエレベーターが目的の階に停止する。勿体ぶって開いた扉を降りた先の廊下には十年以上前のヒット曲が小さな音で流れていて、奇妙な模様の壺や古臭い絵画が壁に掛けられていた。オーナーの趣味なのかもしれない。最近では、こういうホテルもすごくオシャレで綺麗になっていると聞く。ここは時が止まったように、戦前の様子を醸し出している。
「なんかオバケ出そうじゃない?」
「そら、こわいなあ」
なんとも思ってなさそうに鼻を鳴らして笑う男は、私の腰を抱いたまま逃がすまいと引き寄せている。脇腹をまさぐる登吾の手のひらが熱すぎて、ちょっと心配になる。熱でもあるんじゃないだろうか。だから何の前触れもなく、こんなところに引っ張ってきたのかもしれない。
深紅のカーペットが敷かれた廊下の一番奥。精巧なレリーフの扉を開くと室内は薄暗く、香が炊かれているのか神秘的な香りがした。先ほどまでののんびりした気持ちとは真逆である空間を意識してしまうと、途端に腹の底あたりがむずむずしてくる。隣の男は、機嫌良さそうに二人の脱いだ靴を揃え、上着をハンガーに掛けてくれた。レトロ感漂う外観や廊下とは違って、部屋に一歩入れば清潔で、美しく整頓されていた。広めの空間にゆったり座れそうなソファがあって、ベッドは見たこともないくらい大きい。
「部屋はすごくきれいだね」
「ここ座り」
キョロキョロと辺りを見回していると、登吾がベッドへと腰掛けた。おいでおいで、と私を手招きするから、吸い寄せられるようにふらふら寄っていく。すとん、と隣に腰掛けると、ふかふかのベッドが思っていたより沈む。登吾を見ると、ぎらぎらした目で私を見ていた。
ずるいなあ。こういうときだけ、わかりやすい。
「シャワー行きたい」
「俺は今すぐしたい」
熱くてしっとりと湿った大きな手が私の頬を撫でる。耳元に熱い吐息がかかって、どんどん正常な判断ができなくなっていく。唇を食むようなキスをされ、もっと欲しくなってしまう。いつもみたいに、してほしい。頭の中で思ったことが、勝手に口から出てしまう。我慢できずに登吾に乗っかって、彼の唇を塞いだ。ぴちゃぴちゃと音を立てて誘うのに、全然のってきてくれない。もどかしくて、舌で登吾の唇を抉じ開けようと頑張ってみるけれど、わざと離れて私の顔をじっと見てくる。余裕そうな表情とは裏腹に、下のほうは全く余裕がないってことは、布越しでもわかる。こんなに勃ってるくせに、まともにキスさえしてくれない。こっちは早くしたくて堪らず、腰を揺らしているっていうのに。どうやったら私がその気になるか、完全に理解しているからこの男は意地が悪い。早くちょうだい。言ってみても、明確な返事も行動もない。だんだん腹が立ってくる。わかってるくせに、してくれない。登吾の胸に手を当ててみると、いつもより早い鼓動を感じる。そっちだってしたいくせに、私ばっかりが欲しがってるみたいにする。
「んぅ……っ、ねえっ、なんで……?」
「かわい。べーって舌出して」
「……ぇ」
言われたとおりに舌を出す。痺れを切らせた私を慰めるように、分厚くてぬるぬるの舌をようやく絡めてくれた。嬉しくて追いかけ回していたら、逸る私を諫めるように、ゆっくりした動きでのらりくらりと躱される。結局それに慣らされて、じんわりと気持ちよくなってくる。背中や腰を這うように撫でる登吾の大きな手を感じながら、唇をくっつけては離してを繰り返す。きもちいいと伝えると、登吾は機嫌良さそうに笑った。
しばらくベッドの端っこで触れ合っているけれど、もうそろそろキスや触るだけじゃなく、その先に進みたい。ねえ、と言っても知らんぷりをしてくる。焦らして楽しんで盛り上げてくれるのもいいけど、我慢の限界というものがある。エイヤ、と登吾をベッドに押し倒すと、嘘みたいに簡単に転んだ。降参だと両手を上げ、にやにやしている。ここで腹を立てていては相手の思う壺だとわかっているけれど、むっとしてしまう。寝転がったまま動かない登吾の下半身をズボン越しに触れる。熱い。もうこんなになってるよ、なんて攻めるみたいに言ってみても、全然効いてない。私に組み敷かれながら満足げに笑う姿に、なんだかこっちが恥ずかしくなってきた。
「あんまし、見ないで……」
「急にラブホ連れてこられて、ちょっと触られただけですぐこんなんなってたら、アカンなあ」
「そっちがその気にさせたんでしょ……!」
とぼけた顔をして、そやったかなあ、なんて言うのは、ちょっとひどい。もうやめようかというところで、突然ぐるんと視界が反転して、こんどはこっちがベッドに転がされてしまった。さっきまで私の下で好き勝手に触られていた登吾が、今は私に跨って早々とシャツを脱ぎ捨てている。あれよあれよという間にこっちの服も脱がされて、あっという間に下着だけ。狙い過ぎにならないよう慎重に選んだつもりだけど、金刺繍のブラジャーとサイドが紐になったショーツは、やっぱりちょっと、あざとかったかもしれない。初めてのお披露目にもかかわらず、特にコメントなくじっくり鑑賞されているだけという現状に不安が押し寄せる。やる気満々に思われたかもしれない。もしかして、引いているのだろうかと心配になってしまう。
「……なんで黙ってるの」
「ん。かわいーな、思て。もっと見して」
ふふふ、と嬉しそうに笑うくせに、首筋に吸い付きながら胸元をまさぐる手から堪え切れない情欲を感じ、一段と欲しくなってくる。可愛く見られたいと思って選んだ下着セットも邪魔でしかない。思わず登吾の下着をずらすと、これ以上ないくらい大きく膨張したモノが勢いよく飛び出し、腹に当たってバチンと音を立てた。昂っているときにこんなもの見せられて、狂うに決まってる。もうそれしか考えられないくらい、全身が沸き立って仕方がない。登吾の下から抜け出して再び彼を押し倒したら、今度は慌てるふりをしてくれた。中途半端にずらされた下着を剥ぎ取って、ガチガチに勃起した陰茎に頬を寄せる。逞しく血管を浮き立たせピクピクと震え、早くしてくれと主張しているみたいだ。すりすりと撫でながら竿に舌を沿わせて、許しを乞う。
「ンむ、も、いいれしょ……。おねがい」
「あ。こら。いつからこんな欲しがりさんになったんやろ。こんなん俺の前だけにしてや」
貴方の前以外でこんな痴態晒せるわけなんて無いのに、わざわざそういうことを言うなんてひどいなと思う。やっぱり、私が思っているほど深い関係ではないと言われたような気がして、少し悲しい。登吾は私以外にもこんなことをするひとがいるのかな、なんて考えてしまうと、嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。どこにも行かないでと言いたいけれど、重い女にはなりたくない。
大きな手が私の頭を優しく撫で、ゆっくりと股座に近づけた。いいよの合図だとわかり、溜めた唾液を垂らしてぬるぬると竿を擦る。でこぼこの血管を手のひらに感じながら、鈴口を舌でチロチロと舐めると、登吾は小さな呻き声を出して顔を顰めていた。もっと気持ちよくなって欲しくて、亀頭をかぷりと口に含む。ぷりぷりと弾力があって、芯は硬そうなのに周りは柔らかい。これで突かれたら気持ちよくて死んじゃうかも、なんて考えていると、耐えがたい欲望が腹の底から沸いてきて、下腹部がズクンと疼く。口に含んだまま舌で亀頭を撫でていると、先端からぬめり気のある液体がじわじわと出てきているのがわかって、得意げな気持ちになってくる。気分もよくなってきたし、喉の奥まで突っ込んで、じゅぽじゅぽと音を立てながら口淫を続ける。登吾が良さそうにしてるし褒めてくれるから、苦しいけどもっとしてあげたくなる。
「すごい、上手やね。……誰に教わったんかなあ」
「ほんはほほ、ほうほひひはひはい」
「ハハ、なんて?」
「こんなこと、登吾にしかしない、って、言ったあ」
快感を与えて、与えられ、探り、探られ、セックスはコミュニケーションだと思う。そういう意味では、私たちは良い関係を築いてきた。お互いの好きなこと、して欲しいことなんて手に取るようにわかるし、何度身体を重ねてもまた会うたびにしたくなる。だけどそれ以外は、はっきり口にしてこなかったね。例えば、好きだ、とか。愛してる、とか。ずっと一緒に居たい、とかも。セックスするのは、愛があるからに他ならない。粘膜同士をくっつけて、内臓を抉る行為を許すのは、愛する人だけに決まってる。登吾の気持ちを教えてよ。だって私は、今は口が塞がってて言えないんだから。このまま口に出してもらったら、ちゃんとごっくんするところ、見せてあげる。それで登吾が言ってくれたら、私も言うね。
ちらりと表情を伺うと、眉間に皺を寄せてますます苦しそうな表情をしていた。竿に舌を沿わせて喉の一番奥に押し込むとオエッとなって、ぬめりのある分泌物が出てきてよく滑る。一緒に涙も鼻水も出てみっともないけど、絶対気持ちいいからもっとぬるぬるさせるべく、グポグポいわせながら頭を上下させた。押し込むときも引き抜く時も舌を丁寧に絡めて、竿の根本を緩急つけて扱きながら、反対の手で陰嚢を撫でる。毎度上手なフェラチオの見本みたいにやっている。一番は気持ちよくなって欲しいから。根本には貴方への愛情があるから。
しばらく登吾を味わっていると、いよいよ欲しくなってきた。すぐできるように、咥えながらも自分で慣らしておく。下着をずらして、そっと指を一本入れてみる。難なく入って、なんなら二本目も入った。自分の身体のいいところは知っているから、クリトリスの裏側辺りで指を腹側に曲げてトントンと規則的に刺激する。お手間はとらせません。だから、早く突っ込んでめちゃくちゃにしてよ。曖昧な関係なんて忘れてしまうくらい、思いっきりやって欲しい。
「ハァッ、も、いいよ。あんま、無理しなや」
「んぅ、……ね、いいでしょ、欲しい」
口の端からだらりと唾液が垂れてくるのがわかる。きっと、とんでもなく汚い顔をしていると思う。汁まみれで化粧もぐちゃぐちゃ。発情しきって息も絶え絶え。今はセックスしたくて浅ましく欲する雌でしかない。他の誰でも無い。貴方としたい。
「やらしー顔、たまらんわ」
「ゃ、きたな、みちゃ、だめっ……」
無様にひっくり返されて、ベッドに転がっている。腕は上で拘束されていて、どうあがいても解けそうにない。やめてというのに登吾はわざとらしく私の姿を上から下まで舐めまわすように見ている。とげとげしい視線が肌に刺さる。乳首が痛いくらいに勃ってしまって、身を捩るとブラジャーと擦れて気をやりそうになる。ショーツの上からでもわかるくらい濡れすぎていて、呆れられているに違いない。もじもじしながら期待して待っているのに、全然挿れてくれない。
「ね、はや、く……」
「俺も触りたいんやけど」
「ん……っ、今日、はっ……も、いれて、よぉ……っ」
登吾が大きな溜息を吐いた。この淫乱雌豚が、とか思っているに違いない。だってやれやれって顔をしている。もう呆れられてもいいよ。いっそ嫌いになって、さようならまでいったらすっきりするかもしれない。肩で息をしながら自分で下着を脱ごうとしていたら、突然怖い顔になった登吾にブラジャーを引き毟られた。え、とか、あ、とか言っている間にショーツもずるりと足から引き抜かれて、床へぽいっと捨てられてしまう。せっかくサイドは可愛いリボンになっていて、引っ張って解くとエッチな気分になれるはずだったのに、この男は情緒というものがないのだろうか。一言物申してやろうと身体を起こしたとき、両肩を押さえつけてベッドに縫いつけられた。本気の力で掴まれて、すごく痛くて痕が残りそうだ。いつになく乱暴な手つきにびっくりしていると、何も着けていないそのままのモノが、一気に私の奥まで入り込んでいく。
「ぅぐゥ……っ、と、ご……、おく、やァっ……!」
「人の気も知らんと、よう好き勝手してくれたな」
何も隔てるものが無い登吾の熱に、驚いている。律動の度に雁首が膣壁をごりごり擦って、思わずのけぞってしまった。浮いた腰をごつごつした手が掴んで逃げられず、怖くてしかたない。あまりにも気持ち良すぎてすぐに達してしまい、身体がびくびくと痙攣しているのに、登吾は全然止まってくれないからイクのも止まらなくて、なんだか漏らしてしまっているような気がする。意図せずびしゃびしゃと漏れる液体が登吾のお腹にかかってしまって、すごく悪いことをしているような気がしてきた。
「な、なんか……、でちゃ、て、……ッ! だめぇ、だめぇ……っ」
「気持ち良すぎて潮吹いてるね。やらしーなァ」
上半身を捩ってなんとか逃げようとすると、のしかかってきた登吾に押さえつけられ、反対に全く身動きがとれなくなった。肩と腰に腕を回され、ぎゅうぎゅう抱きしめてくるから息ができなくて苦しい。それなのに身体は悦んでいて、子宮へとつながる道は別の生き物みたいに蠢き、肉棒を飲み込んで離そうとしない。こうやって抑え付けられると男の欲がこんなにも熱く、暴力的だと初めて分かった。確かに私だって好き勝手はしたけれど、ここまで滅茶苦茶にやってない。もう許してと言ってみても、全然聞こえてないみたいだ。二人が繋がっている部分からぐじゅぐじゅといやらしい音がしているだけで、登吾は何も言ってくれない。
「ダメとか言いながら、足離さへんし」
「ちが……ッ、ぃ、いま、イっ、て……!」
乱暴に突かれるたび、下腹部が震えて体中に電撃が走る。次々に襲ってくる快感の波に抗うことなどできず、為す術もなく喘ぎ声をあげるだけ。苦しいからもう止まって欲しいと思うのに、本能の部分はもっと気持ちよくなりたいらしく、身体は勝手に登吾の背に腕を回し、腰に足を絡めていた。もっと、もっとと強請るように、登吾の下敷きになりながら腰をくねらせ、奥のほうへ射精されることを望んでいる。
「お望み通り奥に思いっきりブチ撒けて孕ましたるわ」
「ゃ、ぅ、うそぉ……! なんで……、だめ、だめ! ゃ、やだぁ……ッ」
「も、ええやろッ! しっかり全部、ナカで受け止めてやッ。……ハァ、くそっ、ぅ……ッ、でるっ……!」
一番奥にぴたりと亀頭を密着させて、快感でこりこりになった子宮口めがけて子種が注がれる。ああ、出てるな。どろどろであつい、赤ちゃんのもと。射精されているのがわかるっていうのは、フィクションだと思っていた。けれど、こうやって中に出されている今、その瞬間がはっきりとわかる。一滴残らず絞り出そうとして、ビクン、ビクンとゆっくり動く陰茎を中で感じる。お尻の穴のあたりに触れている陰嚢の中の睾丸が、ぐっと持ち上がっているのさえわかって、セックスは単なるコミュニケーションだけではなかったんだ、と思った。
登吾は骨が折れそうなくらい強い力で私を抱きしめながら、性器同士をくっつけたまま私の首に顔を埋めて苦しそうに唸っている。長いことそうしていたけれど、急にむくっと体を起こして私の顔色を窺った。困ったみたいに眉を顰めてハアハアと息を荒げているから、苦しいのかな。私はこんなにも、いい気持ちなのに。
***
「ごめんなさい! 許してください!」
「いや――」
「ほんまにごめん! 何でもします」
「だから――」
「怒ってるよな。本当にすみませんでした!」
「別に――」
「産婦人科のセンセーとこ行こ一刻も早く飛ぶわ俺はよ服着て!」
ホテルの冷たいリノリウムの床に頭を擦り付け、柴登吾が土下座している。中に出してしまったことについて、私に謝罪し続けていた。こちらの言い分を全く聞かず、とにかく謝って勢いで許してもらおうというその態度に腹が立つ。
「聞いて。できてもいいから。っていうかむしろ、私は新たな命、歓迎してるほう、かな」
「……ほんまに?」
「逆に登吾こそ駄目なの? 別に責任取れとか言わないけどさ、私との子どもができるのは嫌だって思われるのは寂しいよ」
「いや、ちゃうねん。駄目ちゃう。勢いでやったわけじゃないです本当です信じて」
早口で捲し立てる様子から、まだいまいち信用できない。勢いでなければ、なんなのか。この行為には、意図があるはずだ。それを教えてくれたら、許してあげる。
「んー、どうかなァ~。これからの登吾くんに期待しとくね」
床に落ちていた登吾のシャツを羽織り、半べそをかく男に背を向け、タイル張りのレトロなバスルームへと向かう。一人で入るには広すぎるから早く来てね、と言おうと振り返ったら、二人分のバスローブとバスタオルを抱えて全裸の登吾が走ってくるところだった。驚いて咄嗟に躱したら、そのまま風呂場へと滑り込んでいってしまった。いや、今のはアナタなら受け身とれるでしょうに、という突っ込みはしないでおく。なぜなら私は、優しく懐が深い。貴方の言葉だって、いつまでも待ってあげる。
アイタタ、と言いながら頭を抱えた登吾が真剣な表情で言う。
「ボールとグローブ、買うとかなあかん」
「……何年先の話してるの」