この甘さには毒がある





「柴くん、これあげる」
「いらん言うてるやろ」

 毎日飽きもせずに俺を好きだと言ってついて回るこの女に、ほとほと呆れている。遠ざけようと冷たくしたり、相手にしてない感を出そうと雑に構ってみたり、いっそ無視してみたこともある。それでもこうやって性懲りもなく現れては、グミだのクッキーだの、チョコレートだと甘いお菓子を差し入れてくる始末。最近はもう、諦めてやりたい放題させている。そんなわけで、コイツはもう今や調子に乗りまくっていた。

「そう言うけど毎回食べてくれるから優しい〜」
「もったいないオバケくるからしゃあなし食べてるだけや」

 無理矢理ケツポケットに捻じ込まれた異様にでっかいクッキー。アホかそんなとこ入れたら座ったとき割れるやろ、とツッコミを入れたいけどやめておく。今この場で片付けるのがベスト。戦闘になったとき、ポケットからお菓子がポロリしたらめっちゃ恥ずかしい。それに、一人になったとき食べたら、この迷惑な女を思い出してしまう。最近は砂糖の甘さを感じると、女の顔が浮かぶ。俺は真っ直ぐな好意を向けられていい人間じゃない。一つも善行を積んでいないどころか、人殺しだ。さっさと飽きてくれと思いながら、今日も見放されていなかったと安堵してしまう気持ちを無視できなくなってきている。非常にまずいと我ながら思う。けどこういう感情は、退けようとすればするほどよく燃えるらしい。正直もう、お手上げになってしまっているが、絶対に気取られるわけにはいかない。

「ほら、これも」
「……ッ、ぅ、んーッ!」

 不意に女の顔が近づいたと思うと唇同士がぶつかり、ぬるりとした丸っこい何かを強引に口の中へ押し込まれた。これだけ身長差があるというのに、おかまいなしでこういったことをやり遂げる執念みたいなものがコイツにはある。女にあるまじき物凄い力で胸倉を摑まれ、口の中を犯されている。飴玉と思わしき物体を追う女の舌に、つい反応してしまいそうになる己の意志の弱さを嘆く。そんな俺の舌先の迷いを見抜いたのか、女の身体が離れていった。口の中に残る蜂蜜の甘さと、粘膜をなぞられた神経の昂りが憎い。

「ちょ、おまっ! アホ! 女の子がなんてことすんねん!」
「だって、柴くんのことが好きだからねえ」

 こっちが必死に平静を装っているというのに、軽々と飛び越えて思いの丈をぶつけてくる。今俺がそれを受け入れられない状況だとわかっているくせに、コイツは相当意地が悪い。断られてもあしらわれても懲りずに体当たりで好意をぶつけてくる。俺が心底嫌がっていないことを見抜いているのだろう。

「ホンッッッマに……! いつか仕返ししたるから覚えとけよッ」
「その日まで、楽しみにしてる」

 いつ片付くかもわからない難題を抱えている今、不誠実な態度は取りたくない。易々と死ぬつもりはないが、未来を約束できる身でもない。

 全部が終わるまでの猶予期間として、この時を楽しんでくれればと思う。