金髪岩壁男の無自覚ソルトアタックは童貞ドラストアルバイターモブ男のすべてを木っ端みじんに叩きのめす!





 地下鉄出口を上がってすぐの商店街の入り口に位置する某ドラッグストアチェーン店。その店はいつも多くの客でにぎわっている。激安がウリというわけでは無いが日用品はプライベートブランドを展開し、リーズナブルな価格とお洒落でシンプルなパッケージが魅力だ。お菓子やレトルト食品も揃っているし、最近では牛乳やヨーグルトなども置き始めたため更に便利さが増した。彼女が一人で暮らすマンションから近く、週一回程度日用品を買うために来ている。それにここのスタッフは皆、はつらつとしており仕事が早い。中でも大学生くらいの男性スタッフの対応が素晴らしく、彼女は生鮮品以外の買い物はここでと決めていた。店に足を踏み入れるといつものように複数の店員から元気な声が聞こえてくる。

「いらっしゃいませ! 本日もお買い得商品を多数取り揃えております!」

 来客チャイムが鳴って入り口を見たとき、心臓が止まるかと思った。あの女性がやってきた!

 同級生たちとは違う華やかさがあるその可憐な女性に僕は恋をしている。恥ずかしいけれど初めて見た時運命を感じたことを貴女は知っているだろうか。いつも背筋はピンと伸びているのに、下半身は女性らしい曲線を描きしなやかだ。目的のものを買うため一直線に陳列棚に行くのに、棚の前ではどれを買おうか悩んでいるところがすごくかわいい。先週の火曜日にはラップを吟味する横顔があまりに素敵で見とれてしまったことを思い出す。

 わかります。当店は都心の駅前には珍しい大型店舗で品ぞろえには自信がありますから迷ってしまいますよね。先日ラップコーナーで二十分悩んだ末、当店のプライベートブランドをお買い上げいただきありがとうございました。気に入って頂けたでしょうか。シンプルなのに安っぽくないパッケージ。貴女のキッチンのインテリアを邪魔しません。貴女のキッチン見たこと無いけど。ぴったり張り付くのに剝がしやすくカットしやすい。儚げな貴女はきっと小食だろうから、食べきれないご飯にそのラップをかけて冷蔵庫にしまうんでしょうね。使い切った後は簡単に畳めるようになっているんですよ。貴女のような華奢な女性にもってこいです。

 僕は童貞なので女体の知識はありませんが商品知識は誰よりも豊富であると自負しております。バイトの経験を生かして卒業後はこの会社で働きます。内定は既にあります。卒業といえばあなたで童貞卒業したいです。溜まったポイントでコンドームを買います。大丈夫。怖い思いはさせません。それにまだ二人の時間を楽しみたいですから。おっと失礼。妄想が過ぎました。さあ、今日は何をお買い求めでしょうか。僕は基本的にはレジ打ちを専門としておりますし、今日は一カ月に一度の十パーセント割引デーなのでレジから離れられません。商品選びのお手伝いをして差し上げたいのに申し訳ございません。レジから貴女のお買い物を見守ります。

 必死でレジ打ちをしている間にあの女性がやってきた。他のバイトに取られたくない。あの女性のレジは僕がやるんだ!

「お並びのお客様、こちらのレジへどうぞ!」

 今日は歯磨き粉とキッチンペーパーと柔軟剤ですか。確かにそろそろ切れるころですよね。しかしこの柔軟剤、今お使いのブランドとは違いますが大丈夫ですか? できる限り同じボトルに詰め替えることをおすすめします。スープはるさめ美味しいですよね。しかし量が少なすぎませんか。しっかり食べて欲しいです。貴女の健康が心配ですから。おや、きのこ派ですか。僕はタケノコ派でしたが今この瞬間からきのこ派になります。これで一緒に食べられますね。

「ありがとうございました! またお越しくださいませ」
「ありがとう」

 店長聞きましたか。彼女の鈴の音のような声を。僕にありがとうと言ってくれました。もしかしたら好意があるのかもしれません。だって他のバイトにはありがとうございます、と言っていましたよね。僕にだけ「ありがとう」と気さくに話しかけてくれる意味とは。今日も彼女は可愛らしかった。次会えるのはいつだろう。毎日シフトに入らなくては。あの女性が来るのは統計上十八時以降で、割引やポイント倍率に関係なくやってくることがわかっているんです。早く会いたい。

 慌ただしい割引デーが終わったと思えば今度はポイント五倍デーだ。今日も店長に懇願され閉店までのシフトに入っている。そろそろ彼女が来るかもしれない。トイレットペーパーが切れる頃だろうから……。ダブルのキャラクターもの、在庫はバッチリ。前回香り付きが売り切れていたのであの女性はがっかりしていた。今日は笑顔が見たい。貴女の好きなストロベリーの香り付きダブルトレペ、入荷済みです。

「いらっしゃいませ! 本日ポイント五倍デーです!」

 バイト仲間のモブ子の声がひっきりなしに聞こえてくる。どうやら夕方のピークタイムに入ったようだ。レジの合間に品出しをしていたのに、それどころではない。そろそろあの女性がやってくるというのに。

 モブ男がレジに戻ろうとしたとき、妙に大きな影が視界の端で動いた。驚いて影の方を見ると商品棚とほぼ同じ高さの屈強な男がのっしりと立っていた。そこにいるだけなのになぜだか凄まじい威圧感がある。到底堅気とは思えない色のスーツ。その下にある隠しきれない鍛え上げられた肉体。妙なサングラスの奥に秘められた鋭い目つき。日本人離れした顔立ちときっちりセットされた金髪。そんな謎の男が自信ありげに胸を張り、威風堂々入店してきた。

(見ない顔だな……まるで岩壁みたいだ……)

 しかしいくら怪しくてもお客様はお客様。モブ男は元気いっぱい「いらっしゃいませ!」と挨拶し、ポイント五倍デーのアピールも忘れない。そんな彼の声が耳に入ったのか営業スマイルが目についたのか、金髪岩壁男は声の方を向くとモブ男を見下ろした。

(いったいお前みたいなヤツがドラストに何の用があるっていうだよ……)

 ここで怯んではいけない。バイト仲間は僕が守るんだとモブ男は決意し再び来店を歓迎する挨拶をした。一方金髪岩壁男はそんなことは気にも留めていないのか、店の奥へと進んでいく。

 その時モブ男に電流走る!

(あ、あれは……!?)

 金髪岩壁男の影からあの女性が現れたではないか! 妙に大柄な男の影にすっぽりと隠れていた彼女は、なんと金髪岩壁男を見上げてにこやかに微笑んでいた。それは二人の親密さを思わせるもので、頬はほんのり赤く染まり嬉しそうに目元はほころんでいる。そしてなぜか恥ずかしそうに金髪岩壁男の後ろをちょこちょこと着いて歩き、小さな手で顔を覆ってうつむいた。

(あんなインテリヤクザのような男が、こ、こ、こ、恋人なのか!? いや、まだ分からない!)

 二人が何を話しているのかわからず、店の奥へ奥へと進んでいくのをレジを打ちながら横目で見る事しかできない。こんな時なのに正確無比にスキャンしてしまう自分にモブ男は腹を立てた。

(ちょっと待て。トイレットペーパーはそこじゃない。奥は駄目だあの女性にふさわしくない商品が並んでいる)

 モブ男は焦った。焦りながらもレジ打ちの手は緩めない。アプリ会員様はお先にクーポン画面をご提示ください。ポイントカードはお持ちですか。本日ポイント五倍デーです。こちら次回からお使いいただけるクーポンです。まるで機械のように客を次々と捌きながらも、視線は金髪岩壁男とあの女性を追い続ける。しかし彼女は棚の影に隠れてしまい、金髪岩壁男の頭だけがちょこんとはみ出して見える。しかもその棚はラブグッズコーナーだ。住宅街の反対側は繁華街となっており、そういったホテルが数件あるので品ぞろえている。悔しいことに売れ行きは上々だ。もしかしたらトイレットペーパーコーナーを忘れたのかもしれない。そうに違いない。そうであってくれ。モブ男は焦燥のあまりレジ裏の第一類医薬品を補充する店長へと声を掛けた。

「店長すみません。七番通路にいらっしゃるお客様の様子がおかしいので確認してきてもいいですか?」

 普段の彼ならば滅多なことでレジを抜けることなど無い。ギラリと光るモブ男の眼を見て店長はただ事ではないと驚き、その申し出を了承した。きっと何か理由があるはずだ。万引きだろうか。それとも痴漢かもしれない。

 しかしモブ男の決意とは裏腹にレジの前には長蛇の列。モブ子もその他のバイトも駆けつけ四台あるレジをフル回転させるが捌ききれない。やはりモブ男の抜けた穴を埋めることができるアルバイトなど存在しないし、類まれなるレジ打ちの才能は店長さえ敵わなかった。

(ただの知り合いな可能性もある。あのコーナーの裏は栄養補助食品が並んでいるからそっちを見ているかもしれない。そうに違いない)

 こんなときにも店内を流れる、いつもは口ずさんでしまうお茶目なテーマソングにモブ男は腹を立てた。奥歯をぎりぎりと噛みしめながらも目元は弧を描き、素早いバーコードスキャンと袋詰めを行う姿はまるで鬼人のようだったと後に店長は語る。

  しばらくすると金髪岩壁男だけがレジに並んだ。

(なぜお前が……くそッ! 一体どうしたっていうんだ。レジがあの女性と唯一触れ合える時間だというのに)

 ドラッグストアといえど男が払うのは当然だとモブ男は感心したがそうではない。あの女性はどこへ行ってしまったのだと辺りを見回した。すると店内の端にある柱にもたれて小さくなって下を向いているではないか。泣いているようにも見えるし、退屈そうにも見える。

 金髪岩壁男がモブ男のレジへ一歩、また一歩と近づいてくる。しかしこの流れ、モブ子のレジに行くだろう。モブ男は今、第二類医薬品の販売と説明を行っているから少々時間がかかる。ドラッグストアで働く者に有利な資格、登録販売者を有しているモブ男にしかできない仕事だ。総合感冒薬の説明をしながら金髪岩壁男を確認するとモブ子のレジが開いても進もうとせず、なんと後ろに並ぶ客に順番を譲ってしまった。

(なッ!? どうして進まないんだよ!?)

 驚いたモブ男は金髪岩壁男をじっと見てしまった。すると目が合い、なぜか小さく頷かれてしまう。サングラス越しに見えた切れ長の目には闘志が燃えている。

(なるほど。そうまでするなら受けて立つ。……勝負だッ!)

 モブ男は全国レジ打ち選手権の優勝者である。レジ打ちの速さだけでなく、接客の良さも評価されるこの大会でナンバーワンとなるのは簡単なことでは無い。大きすぎず小さすぎず、お客様の注目を集めながらも邪魔にならない爽やかな挨拶。正確無比な亜音速のレジ打ち。家に帰るまで品物が崩れない袋詰め。そのすべてが最高峰だと認められたものに与えられる称号。

 それは――
――薬屋清算達人チェッカーエキスパート

(見せてやる! 僕の本気を……!)

 モブ男の背後から無意識のうちに湧き上がる呪力を見て金髪岩壁男こと七海建人は眉を顰めた。一般人が術式に覚醒した瞬間である。まさか自分が目覚めさせたとは露知らず、モブ男が担当する三番レジへと進んだ。

(来いよ……レジ打ちで僕に敵う者は存在しない……)

 金髪岩壁男が差し出したカゴの中身を覗き込むと、一瞬にして総額が視えた。彼の術式、薬屋清算達人チェッカーエキスパートの能力だ。しかし、モブ男にとって見たくないものもまた、視えて・・・しまった。トルティーヤチップスや歯ブラシ、生理用品(彼女が好むオーガニックコットンを使用したスリムタイプのハネ付き二十三センチと夜用三十二センチとタンポン普通の日用)に隠されたカゴの一番下にあるモノ。

(なっ、なんだ、これは……? えっくすえっくす、える……?)

 モブ男は膝から崩れ落ちそうになった。まだ商品に触れてさえ無いのにわかってしまう。そこにあるモノが何なのか。何のために使うのか。そして普段は滅多に出ることが無いサイズであることも、わかってしまった。それでもモブ男はレジ打ちを止めることができない。そこに商品がある限りスキャンし続ける。精度は今までよりもっともっと早い、超音速の領域にまで達したのだ。

(可愛らしく儚げな彼女にこの男はXXLのブツを叩き込んでいるというのか……!?)

 自然と涙が溢れてくる。しかし泣いている場合ではない。金髪岩壁男は堂々と胸を張り、内ポケットから取り出した薄手のカードケースを手に持ち清算を今か今かと待っている。無駄のない所作だ。モブ男はぐっと堪えて無理矢理笑顔を作り総額を伝える。

「カードでお願いします」

 金髪岩壁男が差し出したのは兵士が描かれた白銀に輝くカードだった。滅多に見ることはできないがもちろん使用可能だ。

「ポイントカードはお持ちでしょうか」

 モブ男が告げると金髪岩壁男は一瞬動きを止め、彼女の方をチラリと見た。視線の先の人物は隅っこでモジモジしながら所在なさげにしている。今日はいつもに増して可愛らしく見えるのはメイクのせいだろうか。それとも、上気した頬のせいだろうか。

「……いえ、今日は結構です」

(五倍デーにポイントを付けない……だと……!?)

 モブ男渾身の攻撃も金髪岩壁男には通用しなかった。彼女が持っているカードを使えば五倍のポイントが付くし、更に三パーセント割引特別クーポンも使用可能だ。なぜなら彼女はこのドラッグストアのゴールド会員だからだ。買えば買うほどお得になるカードを使わない手はない。さも日用品を買うフリをしながらカゴの底にはXXL(潤滑剤たっぷりタイプ)のコンドームを忍ばせているムッツリスケベのくせに、ポイントをつけないだなんて不届き極まる所業だ。モブ男は怒りのままに追撃を放つ。

「一ポイント一円として使用でき、百円で一ポイント貯まる大変お得なカードです」
「今日は急いでいるので」

 効果なし。

(あの女性がカードを持ってるだろ!)

 やはり金髪岩壁男は相当な手練れらしいとモブ男は悟る。しかしここで折れるわけにはいかない。モブ男は自らに言い聞かせるように彼女との軌跡を辿る。彼女をゴールド会員にまで押し上げたのは自分だ。消耗品の購入サイクルを把握し在庫を切らすことなく発注している。貯まったポイントで会計の端数を引くと細かいお釣りが出ないと勧めたこともある。ぽっと出の金髪岩壁男になど負けるはずがない。

「本日でしたら五倍ですので百ポイント以上貯まりますがいかがでしょうか?」
「遠慮しておきます。お気遣いありがとうございます。袋をお願いします」

(彼女はいつも、ウチの五周年記念の時に配ったエコバックを持ってきているんだ。それなのにコイツは……。レジ袋一枚二円など大した金額ではないとでも言いたいのか!? くそォ……!)

 カード決算中に袋詰めを素早く行う。モブ男に無駄な動きは一切ない。

「ア、ア……ありがとうございましたァ!」

 モブ男は何食わぬ顔をして会釈し立ち去る金髪岩壁男へ深いお辞儀をして買い物袋を手渡した。もちろんコンドームと生理用品は外から見えないようにクラフト用紙の紙袋に入れてある。プロ店員として当然の配慮だが、今日だけは透明な袋に入れ丸見えにして辱めてやりたい気持ちに駆られた。そんなことはいけないと彼の良心が痛んだのでやめておいたが。モブ男は本来優しい性格なのだ。その優しさゆえに拗らせた片思いを産んでしまった。それが金髪岩壁男への深い憎しみへと転化され、術式を発動させた。皮肉なものである。

(このあと二人は、僕が発注したコンドームを使用してッ……!)

 悲しみのあまり常人なら立っていられないだろう。それでもモブ男はレジ打ちを続ける。なぜなら彼は全国レジ打ち選手権の優勝者であるし、登録販売者の資格も持っているのだから。薬学部に通学していて薬剤師の国家試験が間もなくあるが、合格間違いなしといわれている。このドラッグストアチェーンに内定しており、これほどの実力者ならば即座に幹部候補となるだろう。それに今日はポイント五倍デー。レジには長蛇の列。必死のバイト仲間たちを見て、上がったらジュースを奢ってやろうと決めた。泣いている場合ではない。

(長いだけかもしれないし……)

 モブ男は自分を無理矢理納得させ客をさばき続けた。

 一方二人はニコニコしながら彼女の住むマンションへと向かった。金髪岩壁男の片手には彼女の小さな手が握られている。もう片方は可愛らしいマスコットキャラクターが印刷されたレジ袋を持っていた。

「はつらつとして元気な店員さんですね」
「そうでしょ。いつもお買い得商品を教えてくれたり、悩んでたら相談に乗ってくれるの。ポイントカードもあの人にオススメしてもらったんだ」

 彼女は嬉しそうに答えた。そして先ほどポイントカードを出すのを忘れたことを思い出し少し残念に思った。折角のポイント五倍デーだったのに。

「それにコンドームの品揃えが豊富だ。私のサイズはなかなか売っていませんから。また行きましょう」
「今日のこと見られちゃったから、もう私は恥ずかしくて行けないよ……」

 彼女は再び顔を赤らめて恥ずかしそうにうつむいた。そんな彼女を七海は邪な気持ちたっぷりで見ていた。こんなに可愛らしい仕草をするくせに、夜は少し大胆になる。今夜もこのXXLでアナタを朝まで愛したい。ポーカーフェイスを装っているが、彼も一人の男なのだ。

 例のドラッグストアを気に入った金髪岩壁男はあれから三日に一度は訪れるようになった。男性店員の方がコンドームを買いやすいし、モブ男の接客に感銘を受けていたので必ずモブ男のレジに並んだ。稼働率が良いモブ男に抜けられると休みが無くなってしまう店長は金髪岩壁男の来店頻度を減らすためにXXLを大量に仕入れ、十箱買えばもう一箱ついてくるまとめ買いキャンペーンを行った。しかし自宅のコンドームケースには一箱分しか入らないだとか、大量購入の長期保存により品質が落ちるのが心配だとか、いろいろと理由を着けて金髪岩壁男は三日に一度来店するのだ。自社サイトでの通販置き配も提案したが、金髪岩壁男はモブ男の接客とこの店の品ぞろえを大層気に入っているとのことで断られてしまった。傷口に塩を塗り続けられモブ男は日に日に元気がなくなっていく。

 そんなモブ男が心配になった金髪岩壁男はある日、XXL(極薄タイプ)と一緒に購入したタケノコ型の菓子とジュースをモブ男に差し入れた。確かに彼はかつてタケノコ派だったが、彼女の影響で今はきのこ派だ。とことんまで裏目に出てしまう金髪岩壁男の気づかいという名の無自覚ソルトアタックによってモブ男のライフはゼロとなった。

 それからモブ男はしばらく落ち込み食事が喉を通らず少し痩せた。店長の配慮で三日ほど休むと少し顔色が良くなり再び働き始める。またしばらくして日頃の頑張りを認められ時給が二十円上がったとき、お祝いの飲み会がドラッグストアメンバーで開かれ、そこでモブ子と意気投合して交際が始まった。

 ほとぼりが冷めた頃に彼女は再び金髪岩壁男と一緒にモブ男のドラッグストアを訪れるようになったが、脱童貞したモブ男は落ち着きを取り戻して二人を常時ポイント三倍かつ特別クーポンが毎週配信されるプラチナ会員にまで押し上げた。

 後に店長は社報の現場の声コーナーで語る。

「あの時はどうしようかと思いましたが、なんとか彼を助けてあげたかった。彼は本当に優秀で頼りになるスタッフの一人でした。資格もありシフト貢献度も高く、既に当社に内定も決まっており、ここで折れては勿体ない素晴らしい人材だと思いました。彼の入社後、一緒に働くことを楽しみにしています」

(今季節の変わり目で人がいないから辞められたら私の休みが無くなる……!)

 金髪岩壁男は彼女と共に今日もあのドラッグストアに行く。白銀に輝くポイントカードを携え、意気揚々とXXLをモブ男のレジへと差し出すのだ。





※アオイさんとのプロット交換企画で書きました