遅くに帰ってきた疲労困憊の七海に私と灰原で襲い掛かり、いつもみたいに三人でたっぷりと愛し合ったあと。お腹が空いたとポツリ漏らしたら、灰原が「秘蔵のカップ麵を出すときがきた」と言いながら、ヤカンで湯を沸かし始めた。三人で暮らす家のキッチンからあの時と同じ匂いが漂ってきて、なんともむず痒い気持ちになる。ベッドでのびている七海を見ていたら、より鮮明に昔のことを思い出す。思わず口角を上げて笑ってしまった私を見た七海は、元々よくない目つきを更に凶悪にし、訝し気に口をへの字にした。そんな私たちの様子を伺っていた灰原が、嬉しそうに微笑んでいる。きっと彼も思い出したに違いない。目配せするとにっこり笑って「あのときみたいだね」と言いながら、温かくて心底やすらぐ胸の中に私と七海を閉じ込めたのだった。
午前零時を回った寮の台所で独り湯を沸かしていると、どうしようもなく寂しい気持ちになってしまう。今夜ここには、誰もいない。先輩たちは出払っているし、後輩は明日から連休だからと実家に帰ってしまった。二人の同級生は帰ってこない。晩ごはんを三人一緒に食べようと約束したのに。これが普通の学生だったらハメを外して遊んでるのかな、なんて思えたんだけれど、生憎ここでは命の心配が真っ先に浮かんでくる。
二人に何かあったのかな。お願いだから帰ってきて。こんな日の夜は不安ばかりが募る。私以外存在しない寮は、少し不気味だ。ここは高専の寮で結界によって守られているはずなのに、背後に妙な気配を感じてしまう。大丈夫。おばけなんてないさ。あるのは呪いというエネルギーの集合体で、それをやっつけるための訓練を私たちはしている。
――だからこの世の何も、怖くないはずなんだ。
頭の中で何度も自分に言い聞かせてみるけれど、身体に膜が張るみたいに恐怖や不安に覆われて、身動きが取れない。
窓にカツカツと何かがぶつかる音がしている。見なくてもわかる。甲虫のたぐいだ。蛾や蜂なんかは、もっとこう、柔らかい音がするもの。でも、一応確かめなくちゃ。ここでもし何か悪いものが出てきたとしたら、やっつけるのは私の役目だから。だってここには、私しかいない。
恐る恐る窓に視線をやったら、なんてことはない。ガラスの向こうには予想通り、緑色に輝くコガネムシが光りに吸い寄せられていただけだった。ほっとした私は湯の入ったカップ麵に視線を落とす。こんな時間にこんなものを食べるなんて罪深いが、お腹が空いてとてもじゃないが眠れそうにない。誰もいない寮で独り寂しいだけでも辛いのに、空腹も相まって泣きそうになっていた。だからこれは、カロリーゼロ。私にぽっかりと空いた穴を完全に埋めることはできないだろうけど、ちょっとはマシになるはずだ。大きく溜息を吐いて、カップ麵様に手を合わせる。いただきますを言おうと口を開いた、そのとき。
「ただいま!」
聞き覚えのある声と共に炊事場の扉が勢いよく開かれた。頬に大きな擦り傷を作った灰原がまん丸の目を見開いて立っていた。
「おかえり。声、大きすぎ」
「ごめん。でも今日は誰もいなんでしょ」
「私一人。孤独と空腹で死んじゃいそうだったから、一人で慰めようとしてたところ。七海は?」
「先、風呂に入るって。僕はお腹空いて倒れそうだったからここに来たら、君がまだ起きてた」
ものの数秒で灰原が隣に座って、満面の笑みで私の顔を覗き込む。一口どうぞと勧めたら、手に持っていたコンビニの袋から超大盛りと書かれたカップ焼きそばを取りだした。それからオレンジジュースにコーラ、ストレートティーが出てくる。私たちが買う〝いつものやつ〟だった。
「僕にはこれがあるからね。七海はこっち」
カップ焼きそばの包装をビリビリに破いたあと、巨大なカップ麺を取りだした。今夜は七海も相当やる気らしい。濃厚とんこつ背油焦がしニンニクのそれをすました顔で啜る七海を想像してしまうと、凄まじい背徳感が湧き上がる。気取ってパンやサンドイッチなんかを好んで食べているくせに、こんなこともするヤツだったのか。なんだか裏切られたような気になるのは、普段の七海に私が幻想を抱いているからだ。すらりとした体躯に美しい顔立ち。口も愛想も悪いけれど、黙っていれば王子様みたいだ。そんな七海がいっぱい食べているところを想像すると、頬が緩んでくる。今の私はさぞかし気持ち悪い表情を浮かべている事だろう。灰原が何かを察したのか、じっと私の目を見つめていた。
「寂しかった?」
「心配した。帰ってくるの遅すぎ」
涙を流すつもりなんて無かったのに、目から勝手に零れた謎の液体がテーブルで跳ねる。これはなんだろう。灰原が私の目元を拭う。すごく優しい手つきだ。動揺する私をよそに、落ち着いた声でもう一度「ただいま」と言った。おかえりと返すと、わかりやすく目を細め笑顔を作った。大きな手が私の頭を撫で、そのままするりと頬へ降りていったと思ったら、灰原の唇が私の唇に触れた。その瞬間、漫画みたいに大きな音を立てて扉が開く。怒気を孕んだ声を出して、七海が言う。
「おい。何やってる」
「七海! どうしよう。キスしちゃった」
「謝れ」
濡れた髪の七海がずかずかと私たちの目の前にやってきた。灰原の首根っこを掴んで無理矢理立たせたと思ったら、頭を押さえて首を垂れさせた。痛い痛いと騒ぐ灰原をさらに押さえつけながら、目を吊り上げている。何が起こったかわかるのと、意味を理解するのでは訳が違う。
まさか。どうして。本当に、これはなんだろう。灰原のキス。七海の怒り。私だけ、置いてけぼり。
「別に。謝らなくても。そんなに嫌じゃ、なかったし」
「嫌じゃないならよかった!」
七海に押さえられたままの灰原が明るい声で笑う。それを聞いた七海の瞳孔が更に開いた。綺麗な目がぐっと大きくなったように見える。いつもピリピリしているけれど、今日はこのまま爆発しそうな雰囲気がある。
「良くないだろ。勢いだけでこんなこと――」
「いや。むしろ、嬉しいよ」
そう。嫌じゃない。だからって何も感じていないわけでもなく、きっとこの感情は、嬉しい、なんだと思う。どうしてだろう。同級生だからかな。それだけじゃない。こんな世界で出会って、血みどろになって運命に抗っている。灰原も七海も、特別な存在なんだと感じている。だから、嬉しかった。
「嬉しいんだって! ほら、七海も」
「ハァ⁉ 何考えてるんだどうかしてる大体こんなこと――」
だから、灰原が七海も、って言うのだって何ら疑問に思わない。灰原がいいのなら、七海だっていいに決まっている。座ったままじっと待っていると、灰原が七海の背後に回ってグイグイと背中を押していた。ちょっと待てだの、どうかしてるだの、暴れながら抵抗する七海。そんなに嫌なの。なんだかちょっと、ムカついてくる。私が立ち上がると七海はビクリと肩を震わせて後ずさりをした。油断したすきに灰原に羽交い絞めにされてしまった七海が、顔を引きつらせている。覚悟しろ。有無を言わさず唇を押し付けたら、目を見開いたままの七海が身を強張らせて身震いをした。
「七海、好きだよ」
「ァ……、ア……、あ、りが、とう……?」
気の抜けた返事を言い終えると、七海は脱力して灰原と一緒に倒れ込んでしまった。顔中にクエスチョンマークを貼り付けて、冷や汗をかいている七海が愛おしくて仕方がない。灰原が「行こっか」と言いながら七海を引き摺っていくので、私もそれに続いた。七海の部屋に入ったら、二人で七海を脱がせて、私たちは三人同時に大人になった。
一通り終わったあとに炊事場に戻ると私のカップ麺は伸びて冷え切っていたけれど、お腹を満たすには十分だった。灰原と七海は食べ損ねた超巨大カップ焼きそばと特盛カップ麵を食べて、おやすみと言ってそれぞれの部屋へ戻った。
外が白んできて、コガネムシはもういなくなっていた。窓の網戸に張り付くオオミズアオを横目に、私は一人ぼっちの自室へ入った。あの美しい蛾の羽はボロボロだった。成虫は口が退化しており食べたり飲んだりすることはできず、きっともう長くは無いのだろう。
何度も思い出すのはあの日の深夜の出来事だ。あれから私たちは大人になっても関係は変わらず、不思議なことに三人で交際している。何度も死ぬ覚悟をしたけれど、こうしてなんとか生きている。身体と魂の継ぎ目を確かめるように、私たちはいつも三人で交わる。はじめのほうこそセックスの度にプンプン怒っていた七海も、今や私たちの前では素直に甘えてくるようになった。美味しいものを食べているときと、セックスのあとぐったりしている七海は最高に可愛いのだ。
もう日付が変わろうかというとき、玄関に鍵が差し込まれる音がした。それに反応して、七海が私の頬を撫でて口淫を制する。せっかくこれからだというのに、灰原雄という男はいつも空気を読まない。ガウンの前をきっちりと閉めたのを確認した七海が足早に玄関へと向かう。跳ねるようなその足音からわかる、嬉しそうな様子がいじらしい。私たちが起きているとわかった灰原が、リビングに向かって「ただいま」と声をかけた。いつもの調子で安心する。扉を開けて迎え入れてやると灰原が両手を広げて待っていたので、七海と二人で飛び込んだ。灰原の身体を確かめるように背中を撫でた。あったかくて安心する。いつだってこの男に癒されている。
「おかえり。聞いてよ。七海が大変だった」
「寂しかったんだね。ごめん。僕も早く帰りたかったんだけど」
なだめるようにトントンと背中を叩かれ、今日の疲れが一気に吹き飛んでいく。それは七海も同じようで、灰原の首元に鼻先を埋めて何やらモゴモゴ言っている。中途半端に昂った欲望が仕事帰りの灰原の男臭さで煽られ、なんだかむずむずして落ち着かない。七海も同様に、硬く勃起したペニスを私の背中にわざとらしく押し付けた。布を隔てていてもわかるその熱さに、クラクラしてきて気が遠のきそうだ。灰原は察しているくせに、私たちをハグして包んだまま黙っている。このおかえりの儀式は彼にとって大切なものだから、しばらく付き合ってやることにする。
「二人で楽しんでたの?」
「七海ったら、私が帰って来たとき灰原の服着て私のブラジャーで――」
「それは誤解だ」
灰原に告げ口してやろうとする私の口元を優しく押さえ、七海が弁解する。いやでも、誤解ではない。事実だ。私たちの衣類で自慰に耽る七海を発見した私は、思わず動画の撮影ボタンを押した。録画が開始される電子音を聞きつけた七海が光りの速さで飛んできて私の手から端末を奪い、速攻で削除する姿を灰原に見せたかった。七海は頭を抱えてその場にうずくまり、人生終わったもう生きていないと呟いた。全く、大袈裟な男だ。いつも私たちの前でとんでもない痴態を晒しているくせに、今更何を恥ずかしがっているんだろうと呆れてしまう。大きな体を丸めてウジウジする七海をどうにかこうにかなだめすかし、ようやく口で可愛がるところまで持っていったときに、灰原が帰ってきた。いつもながら全部おいしいところを持っていく奴だ。そんなずるい男が半泣きになって弁明する七海の頭を撫でながら眉を下げて困ったような顔をした。
「寂しい思いさせてごめんね」
「二人とも仕事を入れ過ぎでは。今日は三人でゆっくりしたい」
七海のこれは、セックスしたいの意である。たった一言で七海を慰撫し、話をまとめてしまった灰原の七海操縦テクニックには毎度スタンディングオベーションだ。話が纏まったら、七海は準備を始める為にそそくさと浴室へ向かった。彼は真面目なので洗浄はもちろん、ほぐすところまで自分でやってしまう。それはそれでいいのだが、今日はなんだかもっともっと可愛がってあげたい気分になっている。七海が浴室に入ろうとしているところで手伝うと申し出ると、いつも洗浄はさせないくせに、珍しく素直にうなずいた。本当に可愛い。七海の全部、丸ごと愛してる。
「お願いします」
「痛かったら言ってね」
されるがままの七海のお尻をきれいにして、潤滑剤をたっぷり使ってマッサージしてやる。少しずつふにゃふにゃしてきて、甘い吐息を漏らす。緩く勃起しているペニスが震えていて、エッチすぎるから灰原が来る前に味見したくなってくる。さっきだって中途半端に終わってしまった。もうこのままここで、と思ったとき、七海が交代だと言って私のお尻を撫で擦った。
「私もアナタに奉仕したい」
可愛い七海に縋るように言われたら、どんなお願いであろうと聞かないわけにはいかない。七海の太くてごつごつした指が私の後ろの穴を優しくなぞる。ふにふにと押されると、もどかしい刺激に反応してお腹の中のほうがじんわりと疼いた。今日は私のこっちを使いたいんだ、とドキドキする。七海に身を任せてナカを洗われながらキスをねだって盛り上がっていたら、灰原もやってきた。今日はみんなノリノリだね。三人でいっぱい気持ちよくなろう。
「七海が一番我慢してたんだよね」
「いっぱい気持ちよくなろうね」
ベッドに腰掛ける七海の後ろから灰原が全身を愛撫する。耳輪を食みながら脇腹を撫で、薄桃色の乳首を指先で転がすと七海が息を荒げた。声は我慢しなくていいんだよ、と優しく諭すように言う灰原を見つめながら、何度も頷いている。私は七海の足を左右に開かせて、ヒクつくアナルをじっくりと眺めていた。既に欲しがっているのがわかり、愛おしくてたまらなくなる。お風呂で優しくほぐしたから、すぐにでも受け入れられるようだけど、今日は灰原と一緒に七海をいっぱい可愛がってあげることに決めている。舌で穴を突きながら様子をうかがう。弛緩したところを見計らって、温めたローションをたっぷりつけた指をゆっくりと埋める。いつもみたいに強がるのはやめたみたいで、だらしなく開いた七海の口からホッとしたような喘ぎが漏れた。
七海の中は、驚くほど熱い。私が触りやすいように、自分で膝を抱えてお尻の穴を無防備に晒した。灰原が七海の巨躯を後ろから抱きとめ、全身を使って愛している。七海の身体の中心に集まった熱がわかりやすく主張している様子を見て、一度すっきりさせてやりたいと思った。灰原が帰る前に口でしてあげていたときも結局イってないし、お風呂でも中途半端なままで、もう限界が近いんだと思う。さっきから意味のある言葉を発することができず、ア、とか、オ、とか言いながら、先走りをだらだらと分泌させているからだ。
「七海は一回、出しちゃおっか」
「じゃあ僕は七海が好きなやつしてあげる」
七海がすきなやつというのは、イく瞬間にコリコリに勃った乳首を挟んで優しく引っ張ってやることだ。七海は射精するとき、絶対にキスをねだる。声を出すのが恥ずかしいからだと思うけれど、鼻をフンフン言わせながら必死に口付けを求めてくる様がいじらしい。お尻と乳首で気持ちよくなりながらキスされて、限界まで勃起したペニスをシコシコ扱かれるのは最高だろうね。私がフフフと笑っていると、七海が不思議そうな顔をした。おっと危ない。集中、集中。
気を取り直してキュウキュウ締まる七海の中を少し進んで、お腹側の弾力のある部分を探すことにする。指の腹を押し当てながら腸壁を探ると、すぐにそこは見つかった。ピクリとペニスが震えて正解だと教えてくれる。焦ってごしごしとキツく動かしてはいけない。ゆっくり、丁寧に、コリをほぐすような動きで。トントン叩いたり、ぐっと押したり、七海の反応を窺いながら刺激を続ける。すっかり快楽に身をゆだねた七海は、いよいよ灰原の唇を求めて首をひねり、赤い舌を出した。灰原が嬉しそうに舌を吸って、唇を押し当てた。ゴツイ男同士の口付けがこんなに官能的だなんて知らなかった。ズルイなあ。私もそこに混ぜてほしいよ。七海とも、灰原とも、キスしたい。悶々とした気持ちをぐっと抑えつけて、七海の中をマッサージしながらペニスに口付けた。もう我慢できないと震えて、更なる刺激を待ち望んでいる。空いている手で竿を扱きながら、亀頭をじゅるじゅると吸い上げた。くびれの部分を舌でぐるぐるなぞりながら、手は上下に動かして、お尻は優しくトントンする。我ながら器用だなんて呑気に考えていたら、七海が唸り声をあげた。すると私の口の中に熱くて生臭い精液が流れ込んできた。尿道を駆け上がる精液を押し出すのを手伝うように絞り上げると、腰をグイグイ動かすものだから苦しくって仕方がない。全部出し切らせてやろうと気を利かせて亀頭を吸っていたら、七海が涙を浮かべながら言う。
「……もッ、やめ……、てッ……!」
男子がイッたあとのペニスは非常に敏感になるらしく、優しく扱ってやらねばならないのだと灰原が補足した。涙目になっている七海をよしよしと慰めながら舌を絡めて、乳首を擦り「気持ちよさそう。良かったね」と声をかける灰原はなんと包容力のあることだろう。なんだか妬けちゃうな。七海の股の間で不服そうな顔をしている私を見つけた灰原が、大きな手を差し出してきたのでその手を取った。七海を支えつつ、私を胸に寄せ、器用にキスをしてくる。七海がさっき出したばかりの精液が口の中に残っているっていうのにお構いなしだ。そのまま素直に舌を絡めてみる。ぬるりと入る灰原のぽってりと分厚い舌に七海の精液と私の唾液が絡んで、ぴちゃぴちゃと音を立てた。口の端からねばねばした液体が垂れたと思ったら、灰原がそれを啜って飲み下す。七海が物欲しそうに見つめるものだから、頭が真っ白になってしまう。
私たち、なんていやらしくて、背徳的なことをしているんだろう。
全身にビリビリと痺れるような快感の波が駆け巡っていくのがわかる。無意識のうちに自分でペニスを扱きはじめた七海を横目に、灰原とは七海の精液を口移しで味わっていた。こんなもの美味しいわけなんてないのに、もっと欲しくてたまらなくなる。私が足を閉じてモジモジさせていると、灰原が優しくお尻を撫でてくれた。私のことを心から愛してくれているんだとわかる、慈しむような貴方の触れ方が心地よくって好きだよ。灰原の全部を包んで許してくれる懐の深さや、抱えきれないほど与えられる愛に応えることができているだろうか。この気持ちを何度も口にしてきたけれど、また聞いて欲しい。灰原、あなたの全てを愛してる。
「……はァ、まだ、むずむずして、変になってるッ……」
「私も、欲しくなっちゃったなァ」
今度は七海が拗ねてしまったのか、私の後ろからのしかかって胸をやわやわと揉みはじめた。再び硬くなっているペニスをお尻の割れ目に沿わせて押し付け、ここに入りたいんだと主張した。わかってる。いつも一回だけじゃ治まらないもんね。
「僕にもたれていいよ」
灰原に抱き着いたままベッドに転がった。七海がくっついてきて、二人に挟まれてしまう。二つの鼓動が聞こえてくる。まるで同期しているみたいに同じリズムを刻む。私たちは三人別々の魂があるけれど、セックスの時は境界線が曖昧になる。どこからが七海で、どこまでが灰原か。間に在るものは何なのか。穴を埋めたらもっとわからなくなって、思考はどろどろになり、目の前の快楽を追い求めることしかできなくなる。
しばらくくっついたまま三人で肌を撫で合っていたけれど、それだけじゃもう、到底満足できない。灰原と七海と交互にキスをしながら、二人のペニスを握り、撫で擦る。同じモノなのに全然違う。灰原のは明確に形があって、竿がすごく太い。裏筋はしっかりと盛り上がり、カリ高で重厚感がある。陰嚢はキュっと締まって張りがあり、袋の外から触る睾丸はなんだか丸々と大きめだ。七海のはまっすぐに長くて、カリはプリプリしている。裏筋はスマートだけれど、竿には血管がくっきり浮いてでこぼこしている。陰嚢はぼってりと大きく広くて、中の睾丸は長細い。二人の形を確かめつつ、交互に唇も味わう。二人の手が私の身体をまさぐり、気分が高まっていく。胸を優しく包み込んでいるのは灰原だろうか。臍の下あたりをゆるゆると押し付けているのは七海だろうか。性器の形は全然違うけれど、手や動きはよく似ていた。どちらも私を傷つけないように細心の注意を払いながら、知り尽くされた弱点目掛けてねっとりと責め立てる。こうなってくると、二人を気持ちよくしてあげたいのにいつもそれどころではなくなってしまう。立ち上がった乳首を優しく摘まんで引っ張って、捏ねられたらそれだけで達しそうになるし、すっかりその気になっている子宮を押されると、情けなく腰を震わせてしまう。
準備万端になった尻の穴を指の腹で優しく突かれたら、それが合図だ。この先がわかっているから、早く欲しくて腰が揺れる。正直なところ、七海と灰原の二人を同時に受け入れるのはすごく大変だ。だからいつも、時間をかけて丁寧に、少しずつ慣らしてくれている。一番敏感なところを触られてもいないのに、もう達しそうになってきた。胸も、腰も、唇も、どこもかもが気持ちよくて、もうイキたい。私が二人の身体の隅々までを知っているように、彼らもまた、私の全部を理解している。常にどちらかに唇が塞がれて声が出せないが、言わずともわかるようで、私が限界になろうというとき、塞がれていた口が自由になった。
「ンッ……、イ、イっちゃ……! ぎゅ、って、し、てぇ……!」
「いつでもいいよ」
「力を抜いて」
全部許してくれる灰原の優しい声。私を気遣ってくれる七海の穏やかな声。頭のなかに染み込んで、じわじわ広がって、心地いい。力を抜こうにもうまくいかず、倒れそうになったら二人が抱きしめてくれた。溶けそうなほど熱い体温さえも私の皮膚を刺激して、全部が繋がっていくのがわかる。深く達すると目の前が真っ白になった。キモチイイ。二人に挟まれて、撫でてもらって、まるで天国にいるみたいだ。大きくてごつごつした手からは想像できないくらいに優しく触れてくれている。ずっと二人に愛されていたい。明日なんてこないでいいから、もうこのままでいい。夜も昼もわからなくなるくらい、永遠にこうしていたい。そんなことを考えながら夢うつつで快感に身を任せてぼんやりしていると、七海が困ったような声を出して私の名前を呼んだ。
「……ん、きもちい、よ、七海」
「うん。でも、いいですか、もうそろそろ」
私の首筋を七海が吸う。あまり強くしないで欲しいなあ。痕が付いたらからかわれて困るのは、七海でしょう。そう思ったから、七海を押しのけてダメだよって言ったのに、ずっと追いかけてくる。可愛い奴め。普段は澄ましている七海が頬を紅く染め目を潤ませ、おねだりしてくるから折れないわけにはいかない。
「僕も、我慢できないかも。二人が可愛いくって」
まだ余裕そうな灰原が、私の尻たぶを撫でながら言う。灰原はお尻が好き。丸くてすべすべで気持ちいいんだって。手がするすると降りて、敏感になっている後ろの穴を弄ぶ。待ち望んでいた直接的な刺激にまた気をやっていたら、七海が不服そうに割って入ってきた。灰原の手を払いのけたと思うと、お尻の穴に生ぬるい潤滑剤が塗られる感覚がした。すぐに骨ばった指が入ってきて、私の中を蠢き始める。今日の七海はずいぶんとせっかちだ。それはそうだろう。私が帰ったときから既に一人で慰めようとしていたし、その後の口淫も中途半端に終わってしまった。一回出してはいるものの、さっき仕込んでおいたアナルプラグが七海を刺激し続けている。居ても立っても居られないんだろうなって思うと、本当に可愛くて仕方がない。今、気持ちよくしてあげるからね。
「ナカ、すごく熱い。ここに入れたい。今日は私がこっちです」
「うん、うん。七海が後ろで、僕が前」
お好きにどうぞ。それより早く、私も欲しい。そんなことを考えていたとき、灰原がゴロンと寝転んで、両手を広げた。おいでって言われたから、そのまま彼に跨って、準備万端に薄皮一枚着けられたペニス目掛けて腰を落とす。七海が後ろで何やら文句を言っている。まだそっちはほぐしてないからダメなんだって。そんなこと言われても、もう、必要ないくらいグズグズに溶けてしまっているから大丈夫。目の前にある大好きな人に思いっきり奥まで貫いて欲しい。七海もわかるでしょ。
「いい、のッ、もう……! ン、は、はいっ、て……き、たァ!」
「あー……、あったかい。すごくいいよ、君のナカ……」
肌と肌がぶつかる。限界まで引き抜いて、また思いっきり腰を落とす。お腹の奥に灰原のが入ってる。いいところに当てたいのに、気持ち良すぎて上手く動けない。めちゃくちゃに腰を振っていると、七海が後ろから羽交い絞めにして制止してきた。いじわるだなあと思ったけど、七海をほったらかして二人で楽しんでる私たちの方がいけなかったんだと気付く。拗ねた七海のペニスがお尻を割って入ってくる。お風呂でかなり慣らしたから、ちょっとキツいけど、多分、大丈夫。
「今日、は、二人とも、……ッいじわるじゃ、ないか……?」
「七海があんまり可愛いから、つい、ね」
「んッ……、かわいい、なな、み、好きっ……なの!」
身体を反らせて七海の唇を求めると、への字口をしつつも応えてくれた。眉間に皺が寄りすぎている七海は、わけがわからないという顔をしている。
「私が、かわいいとか、どうか、してるっ……」
しっかりと質量のある七海のペニスが私のお尻の穴を割って入ってくるのがわかる。どんどん進んで、ずっぽりと奥までいってしまった。ハァ、最高。二人に愛してもらえて幸せだなあ。そんなことを考えているとまた目の前が白んでいって、気をやってしまった。ふわふわして気持ちいい。性的な快感が全身を駆け巡り、脳を犯す。
貴方たちと一緒にいられて、本当に幸せだよ。私が私であっていいと全部が肯定されているのを感じる。いつまでも一緒だよ。死んでも愛してるから。
「お腹すいたーッ!」
「秘蔵のアレを出すときがきたね!」
「……声が大きい」
ベッドに横たわる七海をよそに、灰原と私は叫んでいた。あれから何時間経っただろう。いつも以上に大盛り上がりをみせた私たちの営みは、夜が明けてきたことと七海が限界を迎えそうだということで、ようやく終わりを迎えた。途中で水分補給をした以外は何も口にしておらず、お腹がグーグー鳴っている。眠気もあるが、空腹感のほうが強い。何か食べたい。できればジャンキーなもので腹をいっぱいまで満たしたい。そんな気分だった。汗だくの七海は冷えてきたのかベッドで身体を小さくしていたので、タオルケットをかけてやる。とっても気持ちよくしてもらってありがとうの意を籠めて彼のこけた頬に口付けると、まんざらでもなさそうに口角を緩めたのが見えた。
「七海が嫌がるから普段出さないんだけどさ、実は、例のモノがあるんだよね」
「えーッ、灰原さん、アレ、出しちゃうんスかァ⁉」
二人を慕う後輩のマネをしたら、灰原が「猪野くんだ!」と言って手を叩いて笑った。一連のやり取りを横目に、七海はベッドでもぞもぞと蠢いていた。好きにしてくれというメッセージだと受け取り、適当に服を羽織ってキッチンへと向かう。七海がこだわりぬいて選んだホーローのケトルにたっぷりと湯を沸かす。まだかなあ。待ちきれず冷蔵庫から適当に出したチーズを齧る。もう一口食べようとしたら、のそのそ起きてきた七海が目を見開いて、突然駆けてきた。
「アーッ! それはずっと前から予約してやっと届いたスモークチーズ!」
「えっ、ごめん」
「躊躇なく丸齧りだね」
七海がその場に崩れ落ち、ぐずぐずしながら文句を続ける。ワインに合わせようと楽しみにしていたとか、届くまでにどれだけ時間がかかったんだとか、そんなことを延々とキッチンの床に向かって述べた。何カ月も前からお取り寄せしていたというだけあって、確かに美味しく口どけは最高だった。さすが七海、お目が高い。それが火に油で、七海が恨めしそうに私を見上げる。
「あの、すごい、美味しいよ、これ。七海も食べる?」
「三人の記念日に出そうと決めていたのに……」
「まあまあ。毎日が記念日みたいなもんだからさ。お湯、沸いたよー」
お腹が空いているせいかいつもより雑な灰原の慰めを聞きながら、キッチンに並べられたカップ麺に湯を注いだ。超大盛カップ焼きそばと濃厚とんこつ背油焦がしニンニクラーメン、シーフードヌードル。若かりし頃と同じラインナップで吹き出しそうになる私を七海がじっとりと見つめた。全然怖くない。むしろ可愛い。
七海も思い出してるんでしょ。私たちが始まったあの日のことを。
「三人でいると退屈しないで良いということにしておく。……今日のところは」
「七海、わかってるー!」
「七海のそういうところ、すごく好きだな」
大きな溜息と共に七海から出てきた台詞に七海らしさがいっぱい詰まっていて、聞いた瞬間に抱き着いてしまった。やれやれ顔で背中をトントンと撫でてもらえるラッキーイベントも発生した。七海はなんだかんだ私たちに甘いもんね。
夜明けのカップ麺の罪悪感は、激しい運動後ということで相殺された。シーフードヌードルはあの日と何も変わらないままだ。私たちは何か変わっただろうか。三人で一人前だったあの頃とは違って、今はそれぞれが自立しているように思う。でもこうやって身体を重ねていると、十代のまま時が止まって誰もどこも何も変わっていないようにも感じる。肉体は成長して年齢を重ねるけれど、私も七海も灰原も、青春に囚われ続けているのかもしれない。この世界の理不尽には慣れている。明日の命の保証が無いことだって、普段は意識しないようになった。だからといって、受け入れているわけではない。三人の温もりを知ってしまった以上、この世に未練はないと言えなくなってしまった。だからこそ私たちは、今日まで生き残れたのかもしれない。
三人で暮らす都会の住まいにはもう、甲虫も蛾も存在しないのだろうか。そんなことを考えてふと窓に目をやると、レースカーテンに大きな影が見えた。来訪者を刺激しないようそっとカーテンを開けると、一匹のオオミズアオが網戸にへばりついていた。煌めく街灯りに誘われ、迷ってしまい、どこからか飛んできたのだろう。産まれたてのようにふさふさとした立派な触角と、欠けの無い美しい羽を広げくつろいでいる。一週間ほどの命であるこの麗しい蛾は、この都会で番を成すのは難しい。助けてやろうと窓をできる限りそっと開けたはずなのに、ふわふわと飛んでいってしまった。心を許せるパートナーが見つかることを祈り、遮光カーテンを引いた。
今日は三人とも休みだ。これから眠って、目が覚めた時に起きよう。夕食を作るのが面倒だから外食にしようと灰原は言うだろうけど、きっと七海が冷蔵庫のあまりもので御馳走を作ってくれると思う。
※オータズイキさま発行の七・灰サンド夢本「今日は何食べる?」ゲスト寄稿