岩壁一級呪術師の七海建人さんが仮性包茎だなんて聞いてない!





 七海と付き合って三か月。デートは毎度おしゃれなレストランでパーフェクトなエスコート。その後は七海の家かすごいホテルの一室で過ごしている。日常の何気ない会話を覚えてくれていて、いつも私が欲しいものを贈ってくれる。本当に完璧な恋人で、非の打ち所がない。後輩には慕われ、先輩からは頼りにされている。
 でも私は知ってしまった。そんな完全無欠の七海にも、人には言えない秘密があるってこと――。

 いつものように週末のディナーを終えた二人は、夜の街を眺めながら七海の住むマンションへと向かっていた。普段は飲まないアルコールを飲んだ彼女は少し足元がおぼつかず、七海の逞しい腕にくっついて頼りなさげに歩く。そんなにアルコール度数が高いカクテルではなかったはずなのに、疲れた身体に染みわたり思考を鈍らせる。彼女が無口な恋人をこっそり横目で確認すると、どことなく嬉しそうに口元を綻ばせているように見えた。好きだなあ、としみじみ思う。こんな表情が見られるのは恋人の特権だ。そうするとたまらなくなって、七海の腕をぎゅうぎゅう抱きしめた。

「今日の貴女は甘えたで可愛らしい」
「七海のことが大好きだなーって、考えてたの」
「嬉しいですが、酔っていないときに聞きたいものです」
「そんなに飲んでないもん」

 彼女がむっとした表情で抗議すると、七海は手を口元に当ててフフフと声を出して笑った。酔っ払いほど酔っていないと言うものだ。

「あーっ。信じてないなぁ」
「もう着きますから。帰ったら水を飲んで、早く酔いを覚ましてください。今夜も貴女を朝まで愛したいのに」

 七海が耳元で優しく囁くと、途端に彼女は大人しくなった。真っ赤な顔をしてうつむき、腕にしがみついてもじもじしながらチョコチョコ歩いている姿を見て、七海は甘酸っぱい感情が胸の奥からじわじわと染み出てくるのを感じた。彼女のことが愛おしくてしかたがない。心の底から愛している。

 自宅に着いた途端、どちらともなくキスをした。お互いにずっと我慢していたから止まらない。彼女の手が七海のシャツの裾から入ってきたとき、彼の動きがぴたりと止まってやんわりと制止した。乱れた呼吸を整えながら絞り出すように「シャワーを浴びましょう」と七海が言うものだから、彼女はたまらずまたキスをねだった。このままここで溶け合ってしまいたいのに、七海はまだ駄目なんだと譲らなかった。それでもキスのおねだりには応えてやり、彼女を軽々抱き上げて浴室へと連れて行く。しょんぼりしながらブラウスのボタンをはずしていると、七海が水の入ったグラスを持って現れた。彼女が意を決して一緒に入りたいと言おうかと思ったとき、七海に唇を塞がれ、またとろとろになって何も考えられなくなり、そのままふにゃふにゃとシャワーを浴びた。

 シャワーから出てくるとテーブルの上には冷たい炭酸水が置かれていて、入れ替わりで浴室へ行った七海を革張りで硬めのソファに座って待つ。自分のものではないシャワーの音が遠くから聞こえてきて、これから始まる行為を想像して期待で胸が高鳴る。七海とは何度も抱き合ったはずなのに、毎度初めてのような気恥ずかしさがあってどうも慣れない。気持ち良すぎて意識が飛ぶから申し訳ないし、可愛くありたいと思って緊張してしまう。そんな彼女の気持ちを汲んでいるのか、いつも照明は最小限だ。

 窓の外が白んできたので、そろそろ夜明けが近いのだろう。二人は言葉少なく幾度も身体を重ね合った。薄れゆく意識の中で、彼女は七海の横顔を見つめていた。もぞもぞしているので何かと思ったが、どうやら二人の間にあった隔たりをそっと外して、綺麗にしているようだ。いつも気を失うように寝ていたので後の処理している様子を知らなかったし、大きくなっているモノしか見たことが無かった。しばらくするとソレはしおしおとしぼんでいき、下向きになった。平常時の七海のモノは、なんというか、可愛らしく縮こまっている。それに、先端の部分がいつもとは違って、皮の中に隠れているではないか。

――そう。七海は仮性包茎だったのだ。

 七海建人の秘密その一。朝に弱く寝起きはあまり良くない。七海の家で独り、モーニングコーヒーを飲むのは何回目だろう。
 七海建人の秘密その二。くすぐったがり。彼女が後ろから抱き着いたときが一番こそばゆいらしく、くすくすと笑う貴重な姿を見ることができる。
 七海建人の秘密その三。仮性包茎である。岩壁のように屈強な身体を持ち、非の打ち所がないデートコースを展開するパーフェクトな恋人ではある。しかし通常時の七海のモノは可愛らしくしぼみ、先端は恥ずかしがって出てこない。

 彼女は今までの行為を反芻していた。そういえば、明るい照明のもとで見る七海の裸の記憶はない。途中まで寝室が明るいことはあるものの、彼女が脱がされ七海もいよいよ脱ぐとなったとき、いつも照明が落とされていたことに気付く。一つになる前、唇を食みながらさりげなくスキンを装着していることは知っている。けれど、外しているところを見たのは昨日が初めてだ。彼女は探求心がむくむくと湧き上がってくるのを感じていた。七海の隠しごと。知ってしまったらもう、知らなかった頃には戻れない。

 彼女は息をひそめて寝室へと入った。規則的な寝息を立てている七海は案外寝相が悪い。七海建人の秘密その四だ。先ほどは口元まで布団に包まっていたのに、今はベッドの真ん中で大の字になっている。そろりと近づき、上品なボクサーパンツに手を掛ける。そのままチラリと中を覗けば、皮を被ったモノがちょこんと大人しく納まっていた。気づかれないように下着を戻して、ふとナイトチェストに視線をやると、二段目の引き出しがほんのわずかに開いていることに気付く。音を立てないように引き出しを開いてみる。そこには手のひらサイズの箱が入っていて、仮性包茎補助テープと書かれていた。彼女がその箱に手を伸ばした、そのとき。

「……見ましたか」
「うん、見ちゃった」

 頭のすぐ後ろから七海の弱々しい声が聞こえた。声の様子からかなりダメージを負っていることがわかる。今、顔を見てもいいだろうか。

「すみません。隠していたわけでは無いんです」
「いいの。気にしないで」

 彼女が振り返ると七海は、眉尻を下げてしょんぼりと項垂れていた。こんな七海は未だかつて一度だって見たことはない。彼女はそんな顔をさせてしまった自分の浅はかな行動を悔やんだ。くだらない好奇心で七海を傷つけてしまったからだ。

「この状態だと不衛生ですし、なんだか、その、格好悪いような気がして、それで……」
「全然、そんなことない。かわいいなって思ったよ」

 七海のこけた頬を両手で包み、額同士をくっ付ける。伏せられていた七海の視線がゆっくりと動き、二人はじっと見つめ合った。彼女がほほ笑むと、七海の瞳はゆらゆらと揺れた。

「……そんなわけないでしょう」
「見せて。七海のかわいいところ」

 そういって下着に片手を伸ばし、七海の唇に啄むような口付けをした。七海はもぞもぞと身動ぎして、居心地悪そうにしている。彼女の手が下着の中へと入っていき、柔らかい七海のモノを撫でた。愛を感じる優しい手つきだ。

「かわいい七海。私がいい子にしてあげる」

 ぞくりと背筋が粟立つと同時に、ピクリと下着の中のかわいい七海が反応を示す。これから何をされるというのだろう。